こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エール!

otello2015-08-08

エール! La Famille Belier

監督 エリック・ラルティゴ
出演 ルアンヌ・エメラ/カリン・ヴィアール/フランソワ・ダミアン/エリック・エルモスニーノ
ナンバー 177
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

父も母も弟も耳が不自由、ひとり聴覚が正常な少女は彼らと社会との懸け橋になっている。牛の世話から商取引、短気で思ったことを心に留めておけない父と、明るく前向きな母、シャイだけどませた弟の手話通訳を務め、今では一家を支える存在。物語は、そんなヒロインが学校で美しい声を“発見”され、両親の意向を押し切って音楽の道に進もうとする過程を描く。初めて見つけた夢、与えられたチャンスを追ってみたい、けれど育ててくれた父母を残しては行けない。葛藤と逡巡、期待と不安、そして責任感、年齢以上に精神的に大人になってしまった彼女は胸を痛める。一方で、父は新たな挑戦を始め、母は彼を全面的に後押しする。障害をハンディとは決して考えていない奔放な生き方が刺激的だ。

家業の酪農を手伝いながら学校に通うポーラは授業でコーラスを選択、先生に澄んだ高音を褒められる。その後パリにある音楽学校の受験を勧められレッスンを受けるが、村長選に立候補した父は協力せず、母には反対される。

鍋やフライパン、食器や足音、果ては喘ぎ声まで、ポーラの家には生活雑音が満ちているが、ポーラ以外は関知しない。同様に、いくら奥行きと張りがあっても、彼女のソプラノの素晴らしさは家族には分かってもらえない。才能を理解させられない寂しさをゆえ、彼女の決意は揺らぐ。それでも楽しそうに朗唱する姿を見せ、ポーラの人生の主役は彼女自身であると納得させる。娘の幸せを願わない親などいない、そのあたり、親が子離れできないのではなく、実はポーラが親離れできていないのだと思わせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一度はあきらめたオーディション、だが己の本心に気づいたポーラはパリに向かう。彼女は審査員の前でアリアを披露しつつも、見守ってくれる家族にフレーズの意味を必死で伝えようとする。聞こえなくてもいい、でもこの思いは絶対に届くはず。愛と感謝、ポーラの熱唱は、歌は声ではなく、心で歌うものだと教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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