こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チャンス商会 初恋を探して

otello2015-08-27

チャンス商会 初恋を探して

監督 カン・ジェギュ
出演 パク・クニョン/ユン・ヨジョン/チョ・ジヌン/ハン・ジミン/チャンヨル/ムン・ガヨン
ナンバー 198
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

頑固一徹、若輩の言葉には聞く耳持たず、時代の変化に置き去りにされたと悪態をつきつつも、決して己の流儀を曲げない。海兵隊出身が自慢で肉体は壮健、ひとり暮らしは苦にならないけれど時々物忘れする。映画はそんな老人が近所の老女に惹かれ、若き日の情熱を取り戻していく姿を描く。女性とつきあった記憶がなくぶっきらぼうな態度が直らない彼に、周囲の人々が力を貸そうと有用無用のアドバイスをする場面が楽しい。不安と緊張、連絡したり準備するのは面倒くさいし気も使う。しかしそれ以上に相手と一緒に過ごす時間を大切にしたい。誰かを好きになる喜びはいくつになっても生きる原動力、しかめっ面の主人公が徐々に頬を緩め目尻を下げていく過程が、恋の素晴らしさを象徴していた。

小売店で働くソンチルは向かいに引っ越してきたグンニムから食事に誘われる。店の若社長にレストランでの作法を教わり、スーツや靴を新調しデートに臨むと大成功、ソンチルはグンニムに特別な思いを持ち始める。

地域の再開発計画に一人反対するソンチルの機嫌を損ねないよう、街の住民も積極的にソンチルを応援する。偏屈ジジイのソンチルに対し過剰に世話を焼く若社長や飲食店・服飾店の経営者、距離を置こうとするグンニムの娘など、映像はソンチルを巡る人間関係にわずかな違和感を抱かせる。その後グンニムが体調を崩し、さらにグンニムとの約束をすっぽかしたソンチルはひとりで出かけてしまう。このあたり、“老いらくの恋”と行方を見守る隣人たちの物語と見せかけて、巧妙に伏線を張るプロットが冴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて健忘の激しさを自覚したソンチルはアルツハイマー症の検査を受ける。覚えなければならないことを覚えられない、そして忘れたことを忘れてしまっている。自我が崩壊していく恐怖、ソンチルが攻撃的な性格になったのも自分の衰えを他人に悟られたくなかったからなのだろう。彼の気持ちを知り尽くした家族の心遣いと友人たちの思いやりが胸を打つ。

オススメ度 ★★★

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