こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マーウェン WELCOME TO MARWEN

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敵陣深く不時着した飛行士は女ばかりのレジスタンスに救助され、彼女たちと共にナチス人非人どもをぶち殺す。でも、気づくとまたSS将校率いるドイツ兵に取り囲まれている……。物語は、心身に大きな傷を負った男の魂の彷徨を描く。脳内で紡ぎ出したシチュエーションを精巧なフィギュアで表現し写真に収め自分だけの世界に浸っている。なじみのある人としかまともな会話ができない。少しの刺激でパニック状態に陥る。己の領域に他人が入ってくるのを好まない。そして嫌な思いをリセットするために精神安定剤を過剰に摂取してしまう。記憶障害とトラウマ、後頭部を強打され生死の境をさまよう経験をした彼の心は、もはや空想の中でしか羽ばたけなくなっている。合成樹脂製フィギュアっぽい質感で再現された主人公の妄想は非常にユニークで、本物の人形が動いているかのごとく命が宿っていた。

第二次世界大戦当時の戦闘をフィギュアに演じさせ撮影するのが日課のマークは、向かいに引っ越してきたニコルと親しくなる。マークはさっそくニコルのフィギュアをミニチュアワールドに加える。

隣人たちの話や裁判所への召喚から、マークがかつて暴行事件被害者だった事実が明らかになっていく。原因はマークの靴。女性用ハイヒールをこよなく愛するマークはネオナチ風のチンピラに因縁をつけられことになっている。忘れていたはずなのにふとしたきっかけでよみがえる忌まわしい光景、断片的にフラッシュバックされる恐怖から身を守るためにマークは自己の殻に閉じこもってしまう。それは、もうこれ以上傷つかないための自衛策。デジャという魔女キャラのせいにして現実逃避を正当化するマークの悲しみが痛切だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マークはあらゆる性的マイノリティの象徴。他者に迷惑をかけない範囲内で趣味嗜好を楽しむ個人の自由や権利を蔑ろにする人々への抵抗の証でもある。周囲の住人はみな彼の病状を理解し見守っている。差別や偏見にさらされた過去を乗り越えたマークが控えめに見せる笑顔に、わずかな希望が見いだせた。

監督  ロバート・ゼメキス
出演  スティーブ・カレル/レスリー・マン/ダイアン・クルーガー/メリット・ウェバー/ジャネール・モネイ/エイザ・ゴンザレス
ナンバー  173
オススメ度  ★★★


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