こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男

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弱みに付け込んで接触を図る。偽装した身分は完璧、敵の懐に飛び込んだ男はたちまち信頼を得ていく。物語は、北朝鮮高官に取り入り、最高権力者と直に商談を進めた韓国人スパイの葛藤を描く。上官は、最小限の支援はするがほとんど表には出ない。家族とも友人とも連絡を絶った。頼れるのは自分だけ、先の見えない戦いの中で重圧に押しつぶされそうになりながらも男は着実に実績を積んでいく。疑り深い交渉相手の心をこじ開け,貸しを作り、もっともらしい話をでっちあげる。だがあくまで表向きはビジネス、それらしい企画を練り事情を知らない民間人を仲間に加えなければならない。人のよさそうな笑顔と感情を殺した無表情を巧みに使い分ける主人公の、他人の信用を逆手に取り欺き続ける孤独がリアルに再現されていた。

韓国情報部のパクは事業家になりすまし、北京で北朝鮮の対外経済責任者・リ所長に食い込んでいく。北朝鮮内で広告用写真の撮影許可を申請すると、金正日との面会を設定され、平壌に飛ぶ。

現地では当然厳しいボディチェックを受けるが、加えて自白剤を注射され脳内まで調べられる。さらに移動中は目隠しされ、連れていかれたのは山奥に建てられた壮麗な宮殿。その後も発掘と称して困窮にあえぐ市民生活を見て回ったパクは、野ざらしの死体が山積みになっている現実も目にする。だからといってパクの心は動くわけでもなく、ただ忠実に任務をこなすのみ。スパイとはあくまで国家の命令に従う歯車にすぎず、かといって命の保障はない。そんな哀しい運命を背負いながら祖国に忠誠を尽くすパクの背中には哀切が漂っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、韓国内では対北融和派が勢力を伸ばしている。パクの、対北強硬派の上司は危機感を覚えていて、世論を盛り上げるために隠密裏に武力行使北朝鮮に依頼するなど、保身のためには仇敵とも手を組むという狡猾さをみせる。国内をまとめるにはまず外敵を作る、国民の不満を時の政権から逸らそうとする歴代韓国大統領府の安易な常套手段が赤裸々に暴かれていた。

監督  ユン・ジョンビン
出演  ファン・ジョンミン/イ・ソンミン/チョ・ジヌン/ チュ・ジフン
ナンバー  174
オススメ度  ★★★


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