こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界の涯ての鼓動 SUBMERGENC

f:id:otello:20190807154606j:plain


恋は “する” ものではなく “落ちる” もの。たった数日間でそれまでの全人生に匹敵するほどの濃密な時間を共にした男と女は、現実に戻った後もなおお互いのへの強烈な思いを抱き続ける。物語はスパイと海洋生物学者の愛と信念を描く。地球生命の起源と考えられる微生物を探索する女は、男の正体を知らぬまま彼からのメッセージを待っている。一方で、穴倉に監禁され拷問される男が折れそうな心の支えにしているのは、彼女と過ごした日々の思い出。強い日差し、切り立った崖、狭い砂浜、緑濃い草原、吹きつける風、打ち捨てられたコンクリートブロックetc. 自然との距離が非常に近く感じられる北西フランス海岸の風景が、過酷な環境に置かれるふたりの運命を予感させる。

ノルマンディのホテルで出会ったジェームズとダニーは、まったく違う世界に住む相手に惹かれる。深海生物を数学的に解明しようとするダニーは、潜水艇での調査を控えていた。

水道技師と身分を偽っているジェームズは自分の身の上を詳しくは話せず、ずっと聞き役に回っている。研究者にはいないタイプなのだろう、ダニーもジェームズに夢中になっていく。落ち着いた会話の中で理解を深めていったふたりが服を着たまま冷たい海に入るシーンは、大人同士の恋愛にも十代のような情熱的な衝動が必要と訴える。そして、任地に旅立つジェームズがタクシーを止めてダニーと通話する時の表情は、なによりも大切なものを見つけたのに、今さら普通の暮らしは送れないスパイの哀しみに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジェームズはテロ集団に接触しようとして捕らえられるが、アジトを突き止めるまでは救援を呼べない。ダニーが乗る潜水艇は深海で電力を失っても自力で脱出するしかない。絶体絶命の状況で、ジェームズもダニーも最愛の人に助けてもらうどころか連絡すら取れない。もし命を落としても報せが届くことはないはずだ。それでも、再会を固く信じて目の前の危機を克服しようとするふたりの姿は、希望こそが人間を強くすると教えてくれる。

監督  ヴィム・ヴェンダース
出演  ジェームズ・マカヴォイ/アリシア・ヴィキャンデル/アレクサンダー・シディグ/ケリン・ジョーンズ/レダ・カテブ
ナンバー  184
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://kodou-movie.jp/