こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あなたの名前を呼べたなら SIR

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パーティ用の飲食物を準備し給仕する一方で、キッチンでは床に座って手づかみで食事をとる使用人たち。西洋風の洗練されたライフスタイルを楽しむ上流階級とは対照的にいまだ前近代的な下層民の日常なのだろう。物語はインドの大都会、高級マンションで単身暮らす男に仕える住み込みメイドの自立を描く。格差という言葉では足りないほどの生活レベル差は先祖代々の社会システムのなかで受け継がれてきたもの。それでも米国で教育を受けてきた男は彼女を対等な人間として扱い、弱い者の現状を理解している。ところが、身の程を知る女は、家族のしがらみに戸惑い悩み、最初の一歩が踏み出せない。時代遅れの価値観を打ち破るには “上” からの改革を待つのではなく、まず自分から行動する勇気持つべきとヒロインの葛藤は訴える。

建設会社社長の息子・アシュヴィン宅で働くラトナは未亡人の立場に縛られ不自由な人生を送っている。ある日、デザイナーになる夢を実現するために専門学校に通い始める。

恋人の裏切りで婚約破棄したアシュヴィンは不機嫌を隠し彼女の悪口をラトナの前で言ったりはしない。それだけでなく、ラトナに対する姉の厳しい態度を非難したりするなど、リベラル思考の持ち主でもある。ラトナはアシュヴィンを旦那さまと慕う。アシュヴィンもラトナに、同クラスの女にはない奥ゆかしさを覚えている。でも彼らだけではカーストの壁は乗り越えられない。それはヒンズー教徒にしかわからない心身に染み付いた感覚。むしろラトナのほうがこの不条理にどっぷりつかり、そこから抜け出すのを恐れているようだった。ブティックから追い出されるシーンが彼女の諦観を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アシュヴィンも男、バーでナンパした女を連れ込んだりもするが、少しずつラトナとの距離を縮めていこうとする。そしてラトナはキスを許してしまう。しかし身分違いの恋はインドではいまだにタブー。カースト制度に守られていると感じている下層民が多数派を占めている限りカーストはなくならないのだ。

監督  ロヘナ・ゲラ
出演  ティロタマ・ショーム/ヴィヴェーク・ゴーンバル/ギータンジャリ・クルカルニー
ナンバー  185
オススメ度  ★★*


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