犬を慈しみ、娘を愛し、友人を大切にしている。だがあまりの人の好さと気の小ささゆえに、圧倒的な暴力の前では言いなりになってしまう。物語は海辺のさびれた町に住むドッグトリマーの不運な人生を描く。誘いを断っても強引に連れていかれる。犯罪の片棒を担がされたのに報酬はスズメの涙。軽く見られている。いいように利用されている。脅されるとビビってしまう。そんな優柔不断な彼はその場限りの事なかれ主義を積み重ねたツケを結局己で払うはめになる。それでも決断できない彼の底なしの弱さは、力のない小市民が生き残るために身につけた知恵なのか。常におどおどしたような上目遣いで他人を見る主人公を演じるマルチェロ・フォンテが、問題から逃げてばかりの “負け犬根性” をリアルに再現していた。
町のゴロツキ・シモーネに泥棒の手伝いをさせられたマルチェロは、分け前の少なさに怒るがきちんと抗議もできない。それどころか盗みに入った豪邸の犬の救出に現場に戻る。
シモーネは町の商店主たちから暗殺計画が持ち上がるほどの札付きの悪。本当は殺したいはずなのにマルチェロは何も言わない。警察も地元のもめごとには介入しない。どんな弱みを握られているのか。大きな借りでもあるのだろうか。マルチェロはシモーネにどれほどひどい仕打ちを受けても忠犬のように付き従っている。コカイン売人に撃たれたシモーネを手当てするのみならず、町の住人すべてを敵に回してもシモーネをかばい続ける。耐えているのではない、反抗は無駄とあきらめている。腹立ちを呑み込みシモーネに服従するマルチェロのあまりのふがいなさに、思わずため息が漏れてしまった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
罪を被って少しは刑務所で鍛えられたのか、マルチェロの目つきは変わっている。そしてようやくマルチェロは自分の頭で考えて行動するが、そこにカタルシスはなく、彼の未来は無人のグラウンドが暗示する。マルチェロの繊細な感情まで表現されていただけに、欲を言えばあともうひとひねり展開させて欲しかった。
監督 マッテオ・ガッローネ
出演 マルチェッロ・フォンテ/エドアルド・ペッシェ/アリダ・バルダリ・カラブリア/アダモ・ディオニージ
ナンバー 203
オススメ度 ★★★
↓公式サイト↓
http://dogman-movie.jp/