こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

聖なる泉の少女

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どうしてこんな能力が身についているのだろう。なぜ父の後を継がなければならないのだろう。その運命は彼女にとって呪いでしかない。物語は、人里離れた小さな村で民間治療を生業にしてきた家系の娘が直面する苦悩と葛藤を描く。自宅の庭に湧く泉の水を病人やけが人に塗ればたちまち快癒すると信じられている。だが3人の兄たちはそんな現象には懐疑的で家を出た。泉の守り神ともいうべき白い魚は弱ってきている。父にも衰えが見え始めている。そして決定的なのは山林の開拓による水源の汚染。岩場を流れる小川が徐々に白濁していくショットは、彼らの不安で不吉な未来を予感させる。本来清潔感を象徴するはずの “白” が、ここでは清流の美しさを棄損する不快と邪悪、その対比が非常に印象的だった。

老いた父の下で日々 “癒し手” となるための修練を積むナーメ。近頃彼らを取り巻く山や川に異変が生じていると敏感に感じ取っているが、自分ではどうにもならず胸を痛めている。

夜な夜な式服に着替え炭に熾した火を松明に点火する。ある種宗教儀式めいた雰囲気を持つ父娘の行為は、彼らが特別な一族である事実を暗示する。他人とは違っていると自覚しているナーメは、それを負担に思っている。治療で知り合った青年に小さな湖に連れて行ってもらったナーメは、水の中に入り心に芽生えた汚れた考えを洗い流そうとする。それは伝統的な暮らしが近代化の名のもとに変わらざるを得なくなったことへの抗議なのか。静謐な映像は多くを語らず、ナーメは環境の変化に耐えきれず崩れていくようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

かつて映画は国家のプロパガンダとして利用されていた。特に旧ソ連ではその傾向が強く、芸術の独立を模索する映画作家たちは寡黙な映像で抵抗してきた。この作品にもその名残が見られる。大規模な開発の陰で、自然だけでなく古くからの人間の営みまで破壊されていく。その様子が長まわしを多用した詩的な映像で綴られるが、もう少し登場人物の内面にまで踏み込んでもよかったのではないか。。。

監督  ザザ・ハルヴァシ
出演  ロイン・スルマニゼ/マリスカ・ディアサミゼ/アレコ・アバシゼ/エドナル・ボルクヴァゼ/ラマズ・ボルクヴァゼ
ナンバー  204
オススメ度  ★★*


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