こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

引っ越し大名!

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「引っ越しは戦でござる!」。戦乱は遠い昔、ほとんどの武士は太平の世で刀を抜くことはなく、武芸より実務能力が重視される時代になった。彼らにとって最大の関心事は、仕える藩の経営。物語は、国替え総責任者を拝命した若侍の奮闘を描く。書庫番として書物ばかりを読んでいた彼は、知識はあっても実践の機会に恵まれず経験は乏しい。しかし断れば切腹、仲間を集め知恵を絞り放漫な財政と膨れ上がった人員に聖域を定めずに斬り込んでいく。徹底的に無駄を洗い出して売れる物は売り捨てる物は捨てる。さらに配置転換して人件費をカットする。その涙ぐましい節約術は現代のサラリーマンドラマに通じるものがある。主人公の下に集った人々がチームワークを高めるためにそろって口ずさむ “引っ越しの唄” が耳に残る。

家老たちから引っ越し奉行を押し付けられた片桐は、かつて国替えの指揮を執った下士の娘・於蘭を訪ね協力を乞う。於蘭の指導の元、片桐は斬新なアイデアを次々と出し難局を切り開いていく。

父の不遇に藩への不満を募らせていた於蘭。だが、片桐の誠意と熱意に打たれ、切腹寸前の片桐のもとに駆け付けるが、その場の登場の仕方が大いに笑える。それだけでなく、のちに片桐の胸中を見透かしてプロポーズせざるを得ない状況に持っていったりする。彼女に古風で控えめな女のキャラを与えるのではなく、自分の意志を持つ女丈夫と描くあたりが非常に新鮮だ。どこかひ弱な片桐と事なかれ主義の藩幹部たちに比べ、於蘭の筋の通った物言いと行動力は爽快さすら覚えた。片桐への思いに素直になれない彼女の感情を高畑充希が繊細に表現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

藩士の約三分の一に刀を捨てさせ百姓になれと言い渡す片桐。お役御免となった藩士たちは自ら田畑を開墾し生きる糧を得なければならない。カメラは切る側の片桐の痛みのみならず、武士の矜持を否定された藩士たちの気持ちにも寄り添う。それでも流した汗は報いられる。去った者もまた幸せになる、これが本当のリストラではないだろうか。

監督  犬童一心
出演  星野源/高橋一生/高畑充希/小澤征悦/濱田岳/西村まさ彦/松重豊/及川光博
ナンバー  207
オススメ度  ★★★*


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