幼くして孤児となった。新しい環境にすぐにはなじめなかった。そんな時慰めとなったのは頭のなかで想像した暗く幻想的な異界。物語は、後にファンタジー小説で成功した作家の若き日々を綴る。金持ち向けの学校では場違いな思いをした。同居する年上の少女に憧れを抱いた。そして、永遠の友情を誓う仲間と出会い、未来は少しずつ拓けていく。重厚な石造りの建物や道路、手入れされた芝生を持つ大学の中庭、きちっと整えられた髪型、いつも締めているネクタイ、革張り装幀の書物etc. 映像は20世紀初頭英国の社会資本の豊かさをリアルに再現していた。さらに単語の端正な発音と含蓄に満ちた台詞の数々。イングランド上流階級は、子供のころから教室やサロンであんな持って回った話し方を叩き込まれているのだろうか。。。
後見人に恵まれ弟と一緒に里親の下で暮らし始めたロナルドは、転校した男子校でいじめにあう。だがラグビーを通じて和解、3人のクラスメイトと共に、芸術で世界を変える会を結成する。
身近にいる年頃の女の子は同じ家の里子・エディスのみ。ロナルドはエディスのピアノ演奏に夢中になり、陽気な旋律しか弾かせてもらえず不満が溜まっていた彼女をワーグナーの楽劇に誘う。切符が手に入らず忍び込んだ楽屋裏で「ラインの黄金」のメロディにのってふたり戯れるシーンは、恋と青春のきらめきに満ちていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて開戦した第一次世界大戦。オックスフォードの学生だけでなく市民はみな英国の参戦に狂喜乱舞、ロナルドも親友たちもこぞって志願する。このあたり、銃を取ることが若者にとって一人前の男になるための通過儀礼のごとく考えられていて、出陣する兵士たちも冒険に出かけるような期待を抱いている。銃弾や爆弾・毒ガスは未体験、友を喪う悲しみも知らない。戦争の悲惨さに対し免疫のないロナルドたちの姿が印象的だった。ただ、ロナルドの半生は彼の小説の主人公ほど波乱万丈なわけではない。独自の言語を考案する以外にも、もっと創作の苦悩を描いてほしかった。
監督 ドメ・カルコスキ
出演 ニコラス・ホルト/リリー・コリンズ/コルム・ミーニー/アンソニー・ボイル/パトリック・ギブソン/トム・グリン=カーニー/デレク・ジャコビ
ナンバー 211
オススメ度 ★★*