こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アダムズ・アップル

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侮辱の言葉を浴びせても平然としている。鼻が折れ顔が変形するまで殴ったのに何事もなかったように接してくる。限りなく寛容なのか、ただ鈍感なのか。物語は、仮釈放された粗暴な男が郊外の教会で聖職者と過ごすうちに価値観を180度転換させていく過程を描く。人は信じない。ましてや神などくそくらえ。崇拝しているのはヒトラー。でも聖職者は無礼な態度に不快感を示しても、悪しき習慣や歪んだ考え方はその人が乗り越えるべき試練と許容してくれる。怒りや憎しみといった感情は持たず他人の苦悩に深く共感してくれる。彼こそまさに人間を超越した存在、神の使いのようにも見える。しかし男は狡猾な手段で聖職者の “欺瞞” を暴いていく。神なんかいない。それでも強く信じれば奇跡は起こる。かもしれないとこの作品は訴える。

イヴァンが司祭を務める教会で更生プログラムを受けるアダムはここで何をしたいかと問われ、アップルケーキを焼くと答える。その日から庭に生えたリンゴの木の手入れを任される。

アダムに改心する気などさらさらなく、イヴァンに対する反抗を改めるどころか “神の名を騙る偽善者” の仮面をはがそうとする。暴力ではまったく動じない。論争を吹っかけても信念は微塵も揺るがない。ところがイヴァンの主治医から秘密を訊きだし試すと、たちどころにイヴァンは崩れてしまう。神を絶対視している者にとってあらゆる出来事はすべて神の意思。つらいこと悲しいことは悪魔の仕業と妄信している。一方でそれは思考を停止して現実から目をそらしているだけという真実をアダムは衝き、神の不在を証明しようとするのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イヴァンは耳から血を流し失神する。彼の中の神が無残にも打ち砕かれた瞬間。イヴァンの中の神は悪性の脳腫瘍が生み出した幻覚で、腫瘍のせいで肉体的な痛みも感じないのだろ。そして押しかけてきたアダムの仲間たちと対峙するイヴァン。ユーモラスなテイストあふれる映像で再現されるイヴァンの復活は、人生における “let it be” が凝縮されていた。

監督  アナス・トーマス・イェンセン
出演  マッツ・ミケルセン/ウルリッヒ・トムセン/パプリカ・スティーン/ニコライ・リー・カース/ニコラス・ブロニコラス・ブロ
ナンバー  210
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.adamsapples-movie.com/