こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フリーソロ

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ほぼ垂直に切り立った崖、岩にできたほんの1センチほどの突起に指をかけて体を持ちあげ、1センチほどの窪みにつま先をこじ入れて体重を支える。縦に走った長い亀裂があれば腕を差し込み、オーバーハングはつかむ力と推す力をうまく分散してバランスをとる。眼下に広がるのは岩肌と麓の森。カメラは命綱も保護具も一切装着せずに岩山を登る男に密着、彼のクライミングを記録する。彼が挑戦するのは900メートルを超える断崖絶壁。事前にルートを決定・確認し本番に備える。そして運命の日。誰も助けてくれない、頼れるのは自分だけ。たった一つのミス、わずかなコンディションの違い、それらが即死につながる究極の緊張感は、どんな劇映画でも到達できない本物のスリルを味あわせてくれる。

ヨセミテ国定公園の巨岩、エル・キャピタンへの史上初のフリーソロクライミングを計画するアレックスは、そのチャレンジを映像に収めようとするスタッフと入念に打ち合わせをする。

一方で撮影スタッフにとっても神経を使う作業。他者の存在がアレックスの集中力を削がないか何度も議論を重ね、撮影ポイントを決めていく。細いロープにぶら下がってはいるが、重いカメラを抱えての撮影は彼らにとっても死と背中合わせの危険なミッションなのだ。十全の安全など誰も保証してくれない。それゆえに失敗は絶対に許されない。アレックスは一度目の登攀を途中であきらめ、翌年の初夏に再度挑む。手に入れたいのはカネでも名誉でもない。スリルジャンキーとも違う。恋人よりもクライミングを優先するアレックスの信条は、理屈ではなくただそそり立つ絶壁を征服したい純粋な思いだけに支えられていることを証明していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

命綱をつけてのリハーサルの後、アレックスは麓の岩に一歩を踏み出す。Tシャツに特徴のないズボンという休日を過ごすような服装、靴は専用だが、これから乾坤一擲の決戦に出かける男には見えない。ミニバンで寝泊まりする質素な日常生活からもカネの匂いがしなかったあたりに好感が持てた。

監督  エリザベス・チャイ・バサルヘリィ/ジミー・チン
出演  アレックス・オノルド/トミー・コールドウェル/ ジミー・チン/サンニ・マッカンドレス
ナンバー  212
オススメ度  ★★★


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