こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アド・アストラ

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広大な宇宙空間の旅は無限と永遠の間を彷徨うような静謐に満ち、人を内省的にする。話し相手となるべき人々はいない、通信も断った。音もなく光も薄い中、数十日もの沈黙に耐えなければならない。脳裏によみがえる記憶と対話し、懐かしい思い出に一息つく。そんな、命令に背きたった一人で目的地に向かう男の孤独がリアルに再現されていた。物語は、十数年前に星間旅行ミッション中に消息を絶った父を探して太陽系外縁部を目指す宇宙飛行士の苦悩と葛藤を描く。死んだはずだった。なのに今は害をなす存在、止めなければ地球の文明が滅んでしまう。なにより子供のころから憧れていた父にもう一度会いたい。だが、常に冷静な判断が求められる宇宙飛行士に感情を刺激する私情は禁物。主人公もまた反乱者となり真実に迫る姿は求道者のようだった。

サージと呼ばれる深宇宙からの宇宙嵐が地球を襲い大損害が出る。米国宇宙軍は、サージを発生させたクリフォードに対し、息子のロイから説得のメッセージを送らせる。

クリフォードはかつて地球外生命体探査船に乗ったまま行方不明・死亡したことになっているが、海王星の軌道で生存が確認される。いまだに夢は叶えていないが、あきらめてもいない。一方で任務を遂行するためにたくさんの乗組員の命を奪った事実をロイは聞かされる。クリフォードの実像が明らかになるにつれ、少しずつ乱れていくロイのメンタル。平静を保つべく訓練された宇宙飛行士の、喜怒哀楽を抑制した微妙な表情をブラッド・ピットはわずかな面差しの変化だけで繊細に演じ分ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

火星で任務不適格とされ解任されたロイは、クリフォード暗殺のために海王星に送られる宇宙船を乗っ取る。もう後戻りできない。なんとしてもクリフォードと会い、彼の真意を知りたい。そしてかつてヒーローだった父との再会。空間的距離は克服したのに、過ぎ去った時間は心の距離を埋められないところまで離してしまっている。もう理解し合う機会のない父子の断絶と別れが哀しくも切なかった。

監督  ジェームズ・グレイ
出演  ブラッド・ピット/トミー・リー・ジョーンズ/ルース・ネッガ/リブ・タイラー/ドナルド・サザーランド
ナンバー  224
オススメ度  ★★★


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