こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイネクライネナハトムジーク

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“運命の出会い” などいくら待ってもやってこない。後になって幸せを実感して初めて気づくものだから。偶然の時もある、必然の時もある。その時はあっさりスルーしても、過去を振り返ると心に引っかかりが見つかるのだ。物語は、出会いがないと嘆く男と女が、それぞれなにげない時間の中で特別な一瞬を迎える姿を描く。他愛ない会話、ありふれたすれ違い、でも少しだけいつもと違うなにかに遭遇する。それをきっかけに行動を起こすと未来が変わるかもしれない。様々な男女の日常を通じて、あまり劇的ではない瞬間が彼らの未来に影響を及ぼしていく。生きるとは決断の連続、なにもせずルーティンに埋もれるよりも、善意と良心を持って積極的に他者とかかわれば、おのずと幸運は転がり込んでくるとこの作品は訴える。

街頭アンケートで紗季に声をかけた佐藤は、しばらく経って交通整理をする彼女を見かけシャンプーを手渡す。ボクシング世界戦で勝利を収めた小野は電話友達の美奈子に告白する。

舞台は仙台、そこそこ都会っぽい。佐藤の親友・織田がキーパーソンとなって、知り合いの知り合いをたどればたいていの人とどこかでつながっている。しがらみだらけの村社会ではなく、東京のように他人への無関心がはびこっているわけでもない。ちょうどいい対人関係の距離感で世の中が回っている。そんな居心地のよい環境で付き合いだした二組の男女は恋人同士になっていく。彼らを見守るようなカメラの視点がやさしさに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして10年後、佐藤は紗季と同棲はしているが結婚はしていない。美奈子は小野と家庭を持ち、再起戦にかける夫の背中を押している。一方で、彼らの次の世代が重要な登場人物として浮かび上がる。へらへらしている父に嫌悪感を抱く久留米が、父の巧妙かつ有無を言わせぬ危機管理能力に考え方を変えていく過程は、尊敬されなくなった父親たちがどうすれば威厳を取り戻せるかを教えてくれる。腕力ではない、張り巡らせた人間のネットワークこそが人生を豊かにするのだ。

監督  今泉力哉
出演  三浦春馬/多部未華子/矢本悠馬/森絵梨佳/恒松祐里/萩原利久/八木優希/成田瑛基/貫地谷しほり/原田泰造
ナンバー  225
オススメ度  ★★★


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