こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

男はつらいよ50 お帰り 寅さん

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困ったとき、行き詰まったとき、ちょっと嬉しい出来事があったときetc. 日常の些細な場面でふとよみがえるのはあの人の記憶。迷ったら道を示してくれた。立ち止まったら背中を押してくれた。短気で貧乏だったけれど人情に篤くいつも家族や友人がまわりにいた。物語は、脱サラして小説家になった男が、初恋の人と再会し遠い過去を振り返りながら今抱える問題に対処する姿を描く。子供の頃はあれほどにぎやかだった下町の実家も、人の出入りが少なくなっている。大勢の大人に囲まれて育ったのに、妻に先立たれて以降は娘と2人暮らし。孤独なわけではないが、時々人恋しくなることもある。そういうとき慰めてくれるのが、あの人から受けた大いなる愛情。誰かに大切にされた思い出は、いつまでも心の中で生き続けるとこの作品は訴える。

妻の法事で柴又に戻った満男は、両親やご近所といった馴染みの顔ぶれに、しばし安らぎを覚える。その後、自著のサイン会に若いころ付き合っていた泉が現れ、ふたりは現在の悩みを共有する。

いまや泉は国連機関で働くバリキャリウーマン、欧州を拠点に難民保護のために世界中を飛び回っている。だが、輝いて見える彼女の人生にも、両親の離婚・父の介護などと仕事の葛藤がある。家族が助け合うのは当たり前の環境で大きくなった満男は泉にどんな言葉をかけたらいいのかわからない。寅さんならきっとこう言うだろう。そっと肩を抱きしめるだろう。そう思いながらもなかなか行動に移せない満男。不器用なところは似ているのに、人を引き付ける魅力に満ちた寅さんと自分はやっぱり違う。それでも満男なりのやり方で泉を包み込む展開が、やさしさに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

満男の実家を訪れた泉が食事の後そのまま泊るなど、現代では考えられない人と人のつながりがまだこの映画には残っている。20世紀のまま時が止まった世界観は懐かしい故郷に帰ったような感慨を与えてくれた。寅さんだけでなくすべての観客に「お帰り」と声をかける、そんなあたたかい映画だった。

監督  山田洋次
出演  渥美清/倍賞千恵子/吉岡秀隆/後藤久美子/前田吟/池脇千鶴/夏木マリ/浅丘ルリ子/桜田ひより
ナンバー  221
オススメ度  ★★★★


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