こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テルアビブ・オン・ファイア

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異教徒の言葉は自在に操れても、細かいニュアンスや軍人の習慣までは知らない。対立する隣国を舞台にしたメロドラマの構想を練る青年は、あろうことか敵対国の司令官に相談を持ち掛ける。物語は、パレスチナの撮影所に勤務する脚本家が、イスラエル将校のアドバイスを元にドラマを完成させるまでの奮闘を追う。アラブ人が描くイスラエル人はどこかぎこちなくリアリティがない。将校の指摘は的確で、彼のアイデアを取り入れると現場では大好評。ところが、仕事に行くために毎日将校と顔を合わすうちに脚本家は次第にストーリー作りの主導権を奪われていく。「ブロードウェイと銃弾」に似た展開ながら、紛争地域でも平時には一般市民も兵士も殺気立っておらず、両民族が同じ番組を楽しんでいるあたりが人々のしたたかさを感じさせる。

ADのサラームは、パレスチナ女スパイとイスラエル将軍が恋に落ちるドラマのヘブライ語監修するうちに、脚本を任される。だが、検問所の所長・アッシは設定が不自然と文句をつける。

サラームは検問所を通るたびにアッシと打ち合わせするようになるが、日ごとにアッシの脚本への要求は厳しくなる。プロデューサーはなかなか変更を認めてくれない。さらに主演女優のわがままに付き合わされる羽目に。サラームは板挟みになりながらもこのチャンスを逃すまいと寝る間を惜しんで執筆する。一方で、元恋人のマリエルと縒りを戻そうと奔走する。かつては戦火を交え未だ和平未合意なのに、話してみれば相手も同じ人間。サラームとアッシが交流を深める過程がコミカルに再現され、立場を超えて結ばれた友情も押しつけがましくなくて好感が持てる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、サラームはマリエルと交わした会話をそのまま恋人同志のセリフにするなど、着実に観察眼を磨き腕をあげている。そして衝撃のラスト。関係者全員の要求を満たすオチを考え出したサラームの笑顔は、お互いにもっと知恵を出し合い妥協点を見つけるようにすれば、国家間レベルの対立も解決するはずと訴える。

監督  サメフ・ゾアビ
出演  カイス・ナシェフ/ヤニブ・ビトン/マイサ・アブドゥ・エルハディ/ルブナ・アザバル/ナディム・サワラ/ダユーセフ・スウェイド
ナンバー  235
オススメ度  ★★★★


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