こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジョーカー

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3人も殺してしまった。もう後戻りできない。だが、心に湧き上がるのは後悔や自責の念ではなく、“オレもやればできる” という奇妙な高揚感と全能感。逃げ込んだトイレの中、パントマイムのような仕種で全身にみなぎる力を確認し覚醒するシーンは鳥肌が立つほど美しい。物語は、老母の介護をしながらコメディアンを目指す男の孤独を描く。精神疾患で薬に頼り、周囲からも不気味がられている。自分では面白いと自信のネタはまったくウケない。せっかくもらった仕事でも失敗する。そんな、格差の底辺でもがきながらもさらに沈んでいく主人公を、肋骨が透け鎖骨が浮き上がるまで削ぎ落した肉体でホアキン・フェニックスが演じ切る。怒りと絶望が狂気に昇華される過程は、置き去りにされ搾取され虐げられた貧困層の怨念が凝縮されていた。

ピエロのバイトをクビになったアーサーは酔って絡んできたエリート会社員を射殺・逃亡する。何事もなかったように過ごしていたが、世間は “ピエロメイクの容疑者” を英雄視し始める。

一方、母から、市長候補で大富豪のウェインとの関係を聞かされたアーサーは彼に面会に行く。そこで知った母の過去、調査を続けるうちに信じていたものすべてが虚構だったと悟る。少しは周りに迷惑をかけてはいるけれど、母や友人には優しく接し、人気TVショーに出演するささやかな夢を追ってきた。真面目に働いてまっとうに生活する努力も怠らなかった。それなのに、どうして人生を否定されるほどの屈辱を受けなければならないのか。不満と鬱憤を募らせていく姿は、彼の行為こそがこの歪んだ世界ではむしろ正義ではないかと思わせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

トークライブ映像がきっかけに憧れの司会者・マレーの番組に招待されたアーサーは、そこでジョーカーと名乗り、己の信念を貫く。バットマンとの因縁もきちんと織り込まれ、彼がなぜこれまでのバットマン映画で破壊活動を繰り返してきたか、その真実に迫っていく。それは、人間らしく生きる権利を奪われた者たちが起こした革命なのだ。

監督  トッド・フィリップス
出演  ホアキン・フェニックス/ロバート・デ・ニーロ/ザジー・ビーツ/フランセス・コンロイ/ブレット・カレン
ナンバー  237
オススメ度  ★★★★


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