こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒキタさん! ご懐妊ですよ

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検査のために訪れた産婦人科の待合室、数人の妊婦のなか初老のオッサンがひとりで順番を待つ。2時間も居心地の悪さに耐えやっと診察室に入ったら、今度は女性医師から精子が不活性だと告げられる。薄々気付いていたが面と向かって宣告されたときの衝撃。男として値踏みされ、その価値を否定されたような屈辱感がリアルに再現されていた。物語は、ベテラン作家と若い妻の “妊活” を描く。彼女の生殖機能には問題はない。夫の精子は20%しか動いていない。相談した医師からは具体的なアドバイスはなく、己の頭で考え行動するしかない。民間療法から迷信までなんでも試した。酒を断ち運動し節制に励んだ。それでも叶わない夫婦の願い。人工授精をするたびに青い蓋のカプセルに精液を入れて提出する、そのトホホ感がほのかな笑いを誘う。

子供を作らないと決めていたヒキタとサチ夫婦だったが、友人の子を見たサチが心変わりする。毎朝基礎体温を測り始めたサチは、排卵日には早く帰宅するようヒキタに求める。

だが、タイミング法では結果が出ず、人工授精に切り替えるヒキタとサチ。何度も医師の説明を受け、世間で誤解されているような “試験管ベビー” ではないことを確認し、周囲にも理解させる。一方でヒキタは活性精子の割合を上げるためにあらゆる努力を怠らず、そのための生活習慣がむしろ心地よく感じるまでになっていく。どこかドライな関係だったヒキタとサチが妊娠という共通の目的を通じて絆を深めていく過程は、夫婦の愛にもさまざまな形があると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画の語り口はあくまで緩く、「妊活入門編」の域を出ていないのが残念。授かりたいサチの切実な思いがヒキタに伝わり、ヒキタもサチに劣らず我が子を熱望するようになる変化も表層をなぞっているだけ。なにより伊東四朗扮するサチの父の無礼で非常識なキャラクターには興ざめした。義理の父に嫌われているヒキタから見たデフォルメした振る舞いなのはわかるが、もう少し気の利いた表現があったはずだ。

監督  細川徹
出演  松重豊/北川景子/山中崇/濱田岳/伊東四朗/
ナンバー  241
オススメ度  ★★


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