こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブルーアワーにぶっ飛ばす

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観光名所はカッパ像と巨大獅子頭、ファミレスもコンビニも徒歩圏内にはない。母は相変わらず料理下手、父は骨董の刀を振り回し、兄はひきこもっている。物語は、多忙なCMディレクターが友人を連れて帰郷、彼女の胸によぎるさまざまな思いを描く。幼いころは夜明け前に全力疾走するほど大好きだった田舎道も、成長するにつれて嫌悪の対象になった。大人になって離れてからは二度と帰りたいとは思わなかった。残っているのはヤンキーと農業従事者だけ、ランチタイムのリストランテでも夜のスナックでも交わされるのは下品で下世話な会話ばかり。やっぱり戻るんじゃなかった、会いたい友だちもいない。そんな、故郷を捨てたヒロインの地元での居場所のなさがヒリヒリする感覚で再現されていた。

老人ホームに入っている祖母を見舞うために茨城に行くことになった砂田は親友のキヨが運転するクルマで実家に向かう。代わり映えしない風景に砂田は失望を隠せないがキヨは大喜びではしゃぎまわる。

無駄にポジティブなキヨはビデオカメラを手放さず気になる人や物にレンズを向ける。成り行き上、砂田の実家に泊る羽目になるが、なにごとにも興味を示しとりあえずは体験しようという好奇心の持ち主。東京での生活で煮詰まった砂田にとってガス抜きのような存在だ。いやむしろ田舎に来てからとんがった態度の砂田を “ダサイっすよ” とたしなめるあたり、砂田にとっての正反対の自画像といえるのではないだろうか。まだ夢と希望と期待がいっぱいだったころのスレていない自分、砂田はキヨの自由奔放さと心の柔軟さに、過去に抱いていた理想を見ているのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

老人ホームでは育ての母ともいえる祖母がすっかりしなびた様子で砂田を迎える。もう死を目前にした老人、意識も体力も弱っている。それでも1日でも長く生きようとしている姿に、砂田は己の胸に去来する仕事や夫、愛人といった東京での日常とは違う時間のベクトルを感じ取る。この帰省で、成熟を受け入れる準備が砂田にはできたはずだ。

監督  箱田優子
出演  夏帆/シム・ウンギョン/渡辺大知/嶋田久作/ 伊藤沙莉/ユースケ・サンタマリア/でんでん/南果歩
ナンバー  246
オススメ度  ★★*


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