こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボーダー 二つの世界

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他人と距離を取って生きてきた。胸襟を開いて語り合える相手はいなかった。なぜこれほどまでに魁偉なのか、なぜ父はいつも話をはぐらかすのか。疑問に思っていたが日常は何事もなく過ぎていく。物語は、人の羞恥心や罪悪感をかぎ分ける能力を持った女が自らのアイデンティティを探る過程を描く。己を解放できるのは全裸で森を駆け沼で水浴するときだけ。そして彼女が同類の空気をまとった男と出会ったとき、運命が始動する。恐ろしいまでに仏頂面のヒロインが彼といるときに見せるはにかんだ表情が印象的だ。現代の美的感覚からすれば醜悪な容貌を細部まで作り込んだメークは非常にリアルで、まるで元からこんな顔の俳優なのかと思わせるほどの出来栄え。彼ら抑圧された少数者が普段感じている生きづらさを象徴していた。

関税職員のティーナは旅行客の密輸品を正確に見抜く特技で摘発実績を上げていた。ある日、怪しげな男・ヴォーレの荷物を調べるが無実、ティーナはほどなくヴォーレに惹かれていく。

ヴォーレは昆虫の幼虫を集めては食べ、ティーナにも勧める。ティーナにとってヴォーレは初めて価値観を共有できる男、同棲中の男を追い出しヴォーレに部屋を貸すティーナは充実した日々を送る。ヴォーレもまた人目を忍んで暮らしてきたのだろう、邪魔する者がいないふたりの世界で彼らは生と性の喜びを満喫する。ずっと抑え込んできた感情を爆発させるかのように交合するシーンはショッキング。彼らが受けてきた迫害の歴史が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自分たちが北方に隠棲する亜人種の生き残りであるとヴォーレから教わったティーナは、児童ポルノ犯捜査に駆り出されるうちに、ヴォーレが事件に関係していると知る。一応人間として育てられたティーナは法やモラルを破る気にはなれない。一方でヴォーレは人間への復讐を企てている。ヴォーレの同志となるべきか、彼の蛮行を止めるべきか、ティーナは岐路に立たされる。愛を貫くには成熟しすぎた、そんなティーナの哀しみが切なかった。

監督  アリ・アッバシ
出演  エバ・メランデル/エーロ・ミロノフ
ナンバー  248
オススメ度  ★★★


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