こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ドルフィン・マン ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ

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海の奥深さを教えてくれたのはイルカだった。幼いころからダイビングに親しみ、海と海の生き物を相手に暮らしていた男は、水族館でイルカの世話をするうちに彼らが住んでいたより青い世界に興味を抱く。やがて素潜りの醍醐味を覚え、その道を極めようとする。映画は、ダイバー界の伝説として語り継がれる男の実像に迫る。生前の彼を知る人々は皆、彼は魅力的で社交的だが、女好きでわがままな一面もあったという。ヨガの呼吸法を取り入れ禅の修行で心を鍛えるなどフリーダイビング仕様の肉体と精神力を培った先駆者だったが、晩年は怒りっぽく鬱傾向にあったと語る。「グラン・ブルー」の主人公のモデルとなった彼だが、ジャン=マルク・バールが演じた自制の利いた禁欲的な男とは対照的な人物像が印象的だった。

上海租界で生まれたジャックは幼少のころから海で育ち、第二次大戦後は世界中を放浪したのちフロリダの水族館でイルカの飼育係の職を得る。そこで出会ったイルカ・クラウンが彼の運命を変える。

海中に垂らした一本のロープをたどって垂直に潜っていく。30メートルを過ぎると “自由落下” でさらなる深みを目指す。泳ぐわけではない、魚やイルカと戯れたりもしない。ただ息を止め水圧に耐えより深く落ちていく。最初のうちは己の限界に挑戦するだけでよかった。だが世界記録を更新するとスポンサーのみならず関係者やファンの期待にも応えなければならなくなる。そのプレッシャーは11気圧の水圧以上に重圧となったはず。それでも、100メートルの記録を出したときにすでに49歳になっていたとは驚きだ。筋肉や呼吸器・循環器を酷使する一般的なスポーツとは方法論が違うが、この年齢まで体力を持続するために彼がどれほど節制に努めたかがうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、TVの生中継番組で潜水に失敗、失意のうちにエルバ島に引きこもる。もはや海から自由を感じなくなったのか、彼は命を絶つ。イルカにいざなわれ深海に旅立つというロマンティックな最期ではない現実が、彼の孤独を象徴していた。

監督  レフトリス・ハリートス
出演  ジャン=マルク・バール/ジャック・マイヨール/成田均/高砂淳二/ウィリアム・トゥルブリッジ/ドッティ・マイヨール
ナンバー  243
オススメ度  ★★★


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