こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

閉鎖病棟 それぞれの朝

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死ぬはずなのに死ななかった。死にたかったのに死ねなかった。過剰な音の刺激に何をしでかすかわからなかった。物語は、精神科病院患者の日常を通じて命の価値と生きる意味を問う。健常者が住む外の世界にはもう居場所がない。同じような境遇の人々と生活しているからこそ優しくなれる。他人に迷惑をかけ、助けられるばかりの自分でも、誰かの役に立てる。心が壊れた人がいる。知能が低い人がいる。抑制が効かない人がいる。空想を現実と思い込んでいる人がいる。そんな重度の患者とは別に、ネガティブな体験から精神を病んだ症状の軽い患者たちもいる。彼らがに必死なって思いを伝えようとする姿は、不器用でまどっこしい分、涙腺を刺激する。本人自ら望んで入院してくる患者もいるのが新鮮だった。

元死刑囚の梶木、幻聴に悩まされる塚本らが暮らす病棟に由紀という娘が入院してくる。由紀はすぐに自殺を図るが奇跡的に助かり、声をかけてくれた梶木や塚本に胸襟を開いていく。

重大な過去がありながらも比較的気分は安定し知性も平均的な梶木と塚本は中心的な存在。他の患者に目を配り相談相手にもなっている。義父の性的暴力に苦しめられてきた由紀は無理やり退院させられるが、逃げ戻ってくる。きれいな顔を持って生まれたゆえの悲劇、だが運命は彼女にさらなる過酷な試練を与える。そして、彼女のために復讐しすべてを引き受ける梶木の覚悟。死んでも遺骨の引き取り手はない。それでも、己の人生に意義を見つけようとする梶木の意地と、その願いを汲んで言葉を絞り出す由紀。彼女の勇気は、逃げていては何も始まらないと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、由紀が屋上から飛び降りたり、元シャブ中が野放しにされたり、レイプや殺人事件が起きるなど、患者への人権意識は必要とはいえこの病院の管理体制はどうなっているのだろう。そもそも絞首刑になったら自体重で頸椎が折れるはずで、蘇生したとしても梶木は首から下はマヒしたまま動かないと思うのだが。素人でも疑問に感じる点が散見した。

監督  平山秀幸
出演  笑福亭鶴瓶/綾野剛/小松菜奈/平岩紙/駒木根隆介/ 片岡礼子/山中崇/根岸季衣/ベンガル/木野花/渋川清彦/小林聡美
ナンバー  263
オススメ度  ★★*


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