こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

永遠の門 ゴッホの見た未来

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小刻みに揺れ時に横倒しになり、近景にピントが合わず色彩がくすんでいく。頭の中で広がりつつある狂気と妄想を反映させた映像には、主人公の苦悩と葛藤が凝縮されていた。物語は、本人の没後人気を得た画家の晩年を追う。夢破れて移り住んだ農村では変人のレッテルを貼られた。親友は遠くに行ってしまった。頼りにしていた弟はとはなかなか会えない。山野で感じた自由やキャンバスに向かうときの情熱といった、かつて心を占めていた芸術家の魂は限りない孤独の中で徐々に蝕まれていく。やがて彼は自分が正気でいられる時間が短くなっていると気づく。それが近い将来完全になくなってしまうことも自覚している。そんな状況でももがき続けながら創作に浸る姿が痛々しくもすさまじかった。

芸術家組合の方針に失望してゴーギャンと意気投合したフィンセントは、弟・テオの計らいで彼とアトリエで同居を始める。ゴーギャンが目指す芸術にフィンセントは心酔するが、ゴーギャンは新天地を求めて去る。

元々精神的なもろさを抱えていたのだろう。ゴーギャンとの暮らしは安寧をもたらしフィンセントはしばしの間充実した日々を送る。だが、ゴーギャンの不在が原因でフィンセントの不安と恐怖は極限に達し、フィンセントは左耳を切り取ってしまう。自らの才能を信じている、それでも作品は売れないという現実に対峙しなければならない。精神科病棟で神父から査問を受けるシーンで、不快で醜悪な絵とけなされてもなお己をイエスになぞらえ、死後に評価されると譲らないフィンセント。自信過剰なゆえの繊細さが切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

退院後も症状は一進一退、なぜ絵を描くのかという医師からの質問に、考えるのをやめられるからと答えるフィンセント。小康状態のときにはまた自然の中で絵筆を握ったりもする。そして突然の悲劇。報われなかった天才でもない。挫折した夢追い人でもない。伝説として美化され昇華され語られ尽くした人生ではなく、陰にスポットを当てた展開はあくまで陰鬱だった。

監督  ジュリアン・シュナーベル
出演  ウィレム・デフォー/オスカー・アイザック/マッツ・ミケルセン/マチュー・アマルリック
ナンバー  266
オススメ度  ★★*


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