こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

LORO 欲望のイタリア

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ビジネスで大成功した。TV局も買収し大衆も洗脳した。そして、国家の最高権力者にまで上り詰めた。物語は、スキャンダルまみれだったイタリア元首相の奔放な私生活を再現する。権謀術数に長け、政敵はなだめすかしひとりずつ取り込んでいく。言葉巧みに人心を操り、口から出まかせの嘘を相手に信じさせてしまう。若い女に目がなく、財力に物を言わせては壮大なパーティを開いて好みの娘を物色する。政治家が聖人君子などとは誰も思っていない。だがここまで自らの欲望に忠実に生きる主人公は、ある意味で世のあらゆる男たちの憧れ。そんな彼も寄る年波には勝てない。必死で口説いた女子大生に “祖父と同じ口臭がする” とあっさり袖にされるシーンに、老いの哀しみが象徴されていた。同じ入れ歯洗浄剤を使っていたというオチも含めて。

政権復帰を目指すシルヴィオサルディニアの豪邸でパーティ三昧の日々を送りながらも密かに戦略を練っている。野心家の青年・セルジョは大勢のセクシー美女を集めシルヴィオに接近する。

国の未来をどうしようとかいう発想はなく、ただ目の前の享楽に身を浸すシルヴィオ。それは彼を支持する国民も同じで、今がハッピーならば将来のことなど考えない。シルヴィオが所有するTV局が放送する低俗な番組が国民の思考力を低下させ、シルヴィオの妄言は真実になる。シルヴィオは一人暮らしの老婆に電話で新築アパートを勧めるが、詐欺師と疑われながらもいつの間にか言いくるめてしまう。その天才的なトーク術はまるで催眠術のよう、国民が危機感を抱かぬまま債務国に落ちてしまったイタリアの現実が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

導入部は「セルジョが見た大物政治家の裏の顔」の体裁を取るが、途中から彼の存在感は薄れ、中盤以降はシルヴィオの独壇場になる。セルジョに狂言回しとしての役割は希薄、ならば彼の部分はカットし、もう少し上映時間を詰めてほしかった。それでもシルヴィオの放蕩な日常は虚飾のネオンのごとききらめき、人生を謳歌しているように見えた。

監督  パオロ・ソレンティー
出演  トニ・セルビッロ/エレナ・ソフィア・リッチ/リッカルド・スカマルチョ/カシア・スムトゥアニク/ファブリッツィオ・ベンティボリオ/ロベルト・デ・フランチェスコ
ナンバー  272
オススメ度  ★★★*


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