こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

i-新聞記者ドキュメント-

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大ぶりのトートバッグを肩にかけ、荷物を詰め込んだキャリーバッグを引っ張る女。タクシーを借り切り電車を乗り継ぎ飛行機で移動、政権批判のネタを見つけては日本全国を飛び回り、取材で集めた事実や証言を記者会見で官房長官にぶつけていく。カメラはそんなリベラル志向の強い新聞社の記者に密着、彼女のエネルギッシュな日常をレポートする。所属は政治部ではなく社会部、遊軍として活動するうちに沖縄の米軍基地反対派からは “ヒーロー” に祭り上げられ、準強姦民事裁判の原告に寄り添い、原発被災者の言葉に耳を傾ける。さらに国有地売却疑惑では、切り捨てられた男と妻の言い分は無批判で受け入れる。反権力・反政権ならなんでもOK、そのバイタリティ溢れる行動力には圧倒される。

首相官邸で行われる菅官房長官の記者会見で、執拗に質問を重ねる望月。辺野古基地建築現場で反対派住民から取材した細かいデータを示して突っ込んだ問いを投げかけるが、菅にあっさりいなされる。

それ以外にも取材中に得た新事実を責任者に質す望月。高級官僚でもある責任者は、書類上の数字は頭に入っていても現場は何も知らない。その典型が菅、政権の中枢で報告を待つ立場の人間が決して知りえない情報を望月がつかみ菅に突き付ける。望月が満足する答えは得られない。2人の間でその過程がなんども繰り返されると、望月はやがて質問妨害を受けるようになる。このあたり、木で鼻をくくった対応しかしない菅と食い下がる望月のかみ合わないやり取りはコミカルでさえあった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、獣医学部新設問題などにも切り込む血気盛んな望月を、ディレクターである森はカメラを通じて見守り続ける。そのうち、森もまた官邸での記者会見を撮影したいと思うようになるが、フリーの映像作家に取材証は発行されない。望月は「東京新聞」の看板を背負っているからこそ特権を享受し身分を守られてもいるのだ。彼女の真価が問われるのはフリーのジャーナリストになってから。彼女に独立する覚悟はあるのだろうか。

監督  森達也
出演  望月衣塑子
ナンバー  279
オススメ度  ★★★


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