もっと思い通りに生きたい。もっと世間に認められたい。なによりセックスを体験したい。だが、彼女は車椅子がなければどこにも行けない体。物語は、身体障害を抱えながらも自立しようとする女の姿を通じて、人生の意義を問う。両脚の感覚はない。左手にも少し麻痺が残る。にもかかわらず、自由に使える右手で描いた漫画は大勢のファンに受け入れられるほどのクオリティ。ところが友人のゴーストライターに甘んじているために、評価されることはない。そんな時、経験を積めとアドバイスされた彼女は新しい一歩を踏み出そうとする。入浴シーンで全裸になったヒロインが見せる、ほとんど運動ができず筋肉が未発達の肉体には、彼女が歩んできた “他者の手助けがなければ非常な不便を強いられる不自由な日常” が凝縮されていた。
コスプレ漫画家・サヤカに作品を提供しているユマは自作をエロ漫画編集部に持ち込むが、男女の絡みの場面でリアリティがないと指摘される。SNSを通して男との出会いを重ねるがなかなか相手にされない。
精一杯おしゃれして出かけたのに、ユマが車椅子だと知ったとたんに腰が引ける男たち。プロの売春夫にもNGを出され途方に暮れているところに風俗嬢・舞が声をかけてくる。舞はユマに理解を示しいろいろ相談に乗ってくれる。一方で、何事も束縛しようとする母はユマの変化を見逃さない。母の献身的な介助は、母の自己満足でしかない。ユマと母の激しい言い争いでは子離れできない母親の強烈なエゴが爆発するが、それでも娘への愛情が根底にある。そのあたり、2人の間に交錯する複雑な感情が共感を呼ぶ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
その後、母の目を盗んで逃げだしてきたユマは生き別れた父を探して居場所がわかっている叔父を訪ね、衝撃の事実を知らされる。過去はいくら恨んでも変えられない。ならば決着をつけるために現実を受け入れようと、タイに住む姉を訪ねる。その間、渡航費用の工面やパスポート取得の手続きはどうしたのかという疑問はさておき、未来に向かって進むユマの姿は美しかった。
監督 HIKARI
出演 佳山明/神野三鈴/大東駿介/渡辺真起子/熊篠慶彦/萩原みのり/渋川清彦/尾美としのり/板谷由夏
ナンバー 270
オススメ度 ★★★*