こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アニエスによるヴァルダ

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オペラハウスの客席に集まった大勢のファンの前で話を始める年老いたフィルムメーカー。1950年代から常に時流の先端を走っていた彼女の作品は後に続く者たちに大いなる影響をもたらした。いまだ滑舌は衰えず記憶も鮮明、自分が企画し監督した映画について語る姿は懐かしさと自信に満ち、言葉にして伝えることで21世紀の映画製作者たちに新たなインスピレーションを与えようとしているかのよう。映画は、2019年3月に逝去したアニエス・ヴァルダが自作を紐解く過程を追う。彼女自身が、映画はどういう意図で立案され、様々な工夫がなされて撮影され、テーマに沿って編集されるかを丁寧に解説。フェミニズムに共感した‘60年代、ハリウッドの思い出、大コケした超大作、そして個人への回帰。そのキャリアはまさに伝説と呼ぶにふさわしい。

ドキュメンタリーという体裁の「ヤンコおじさん」にも作為が存在すると言うアニエス。本人がサンフランシスコにいる叔父に会いに行く映像は何度もテイクを繰り返し、意図的な演出がなされる。

「ひらめき」「創造」「共有」。映画を作るうえでのキーワードについてそれぞれの注釈を加えるアニエス。時代の変遷に合わせ米国公民権運動に興味を持ったアニエスはその後も意欲的に新鮮な素材を取り上げていく。「冬の旅」で主役を演じたサンドリーヌ・ボネールとの語らいは、監督と女優の緊張関係がカメラを回していない時も続くなど厳しい現場だったと当時を思い出す。21世紀になってカメラがデジタル・小型・軽量化されると、その機動性を生かしてアニエスは被写体に寄り添うようにある。生ゴミを日々あさる人々に迫った「落穂ひろい」では対象者の生きざまが浮き彫りにされ、そのスタイルは「顔たち、ところどころ」に受け継がれていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに映画ではなく美術館で公開されるアートとしての映像はイマジネーションを大いに刺激する。波打ち際の写真の前面の床にディスプレイを置き波が打ち寄せる映像を流す、静止画と動画を融合させた見事な展示は実物を見たくなった。

監督  アニエス・ヴァルダ
出演  アニエス・ヴァルダ
ナンバー  275
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/