子供ころの夢を諦められずいまだに追いかけている。でも、集中力に欠け気分屋の性格ゆえに現実では冴えないことばかり起きる。そこに現れたのは、好みじゃないけれど長身イケメンのさわやかな男。物語は、おもちゃ屋に勤めるヒロインが謎の男と交流するうちに、自分の問題に対峙し新たな一歩を踏み出すまでを描く。クリスマスが近づいたロンドン、誰もが浮かれ、誰かと幸せを共有したいと思っている。なのに、一夜限りの関係を繰り返し、友人宅を転々とし、たまに帰った実家でも母とうまくいかない彼女は、どこか精神的な弱さを抱えているかのよう。そんな彼女を温かく見守りながらも新鮮な気づきを与えてくれる彼は、気まぐれにしか会えない。人生に対しいい加減だった彼女が変わっていく過程がチャーミングだ。
旧ユーゴから一家で移住してきたケイトは、働きながらも歌手を目指している。ある日、店の外に佇むトムと目が合い、散歩に誘われるうちに見慣れた町にも魅力的な場所や風景がたくさんあると教えられる。
待っているとどこからともなくやってくるけれど、こちらから探してもトムは見つからない。会話の断片からホームレス救済所にいると見当をつけたケイトは勇躍乗り込むが、彼に心当たりがある者はいない。それでもケイトは、オーディションに落ち続ける日々よりも、街頭で歌う喜びに目覚める。己のためではなく他人のために行動し感謝される充足感。ケイトとトムが営業終了後の客がいないスケートリンクでたどたどしく滑るシーンは「ロッキー」を思い出させ、不器用だけれど真剣な恋の到来を予感させる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
いつの間にかやさしさを取り戻したケイトは、ヘイト言動にさらされた同胞に声をかけたり、折り合いの悪かった姉や母とも和解するなど、気持ちに余裕ができ始める。それはトムからの贈り物。そして、しばらく会っていない彼にお礼を言おうとアパートを訪ねた時に知ってしまった真実。愛や思いやりといった感情が宿るのは頭ではない、ハートであるとこの作品は訴える。
監督 ポール・フェイグ
出演 エミリア・クラーク/ヘンリー・ゴールディング/ミシェル・ヨー/エマ・トンプソン
ナンバー 258
オススメ度 ★★★