こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ダウントン・アビー

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会話の端々に皮肉と暗喩がにじみ出る。相手の主張を肯定したり同意したりするときは含みを持たせ、否定したり断るときは遠回しな言い方をする。時に本心と正反対のことを口にして相手に真意を理解させる。そんな、京都洛中人のような、癖のある話し方をする人々。貴族社会のメンタリティは英国も同じだと妙に納得させられた。物語は、国王夫妻訪問の接待に追われる大邸宅住人の人間模様を活写する。粗相があっては家名に傷がつくと眠れぬ夜を過ごすホストファミリー、最高の栄誉と張り切っていたのに下働きに甘んじる使用人、相続をめぐってわだかまりを持つ親戚など、多彩なキャラクターの喜怒哀楽がリアルに描かれる。何よりあらゆるディテールまで再現された1920年代の建物小道具立ち居振る舞いが圧倒的なリアリティをもたらしていた。

実質的なクローリー家の当主・メアリーはカーソンを執事に復帰させるが、食事やパレードの準備に大忙し。ところが、王室の執事と料理番が乗り込んできて、カーソンたちを脇に追いやる。

威光を笠にクローリー家の使用人たちを下僕扱いする王室執事たちに、カーソンたちは一致団結、一計を案じる。一方、王妃の侍女・モードは肚に一物ある様子。他にも仕事と家庭、同性愛、政治的思想など様々な問題を抱えた登場人物がそれぞれの思惑を胸に駆け引きをする。感情はあくまで表に出さず言葉を武器に闘う姿は、暴力を伴わない戦争を見ているような気分になった。領地を経営し土地屋敷を維持しながらも、したたかに時代を生き抜いてきた矜持と底意地の悪さが混じった先代伯爵夫人を演じたマギー・スミスの、人を委縮させるような視線が印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

国王一行が到着、パレードの邪魔者も排除し、いよいよ晩餐会の時間になる。プロ意識をいかんなく発揮したカーソンたちは見事な働きぶりを見せ、メアリー以下クローリー家全員が面目を保ち、様々な諍いや確執もすべて落としどころを見つける。最後まで追い詰めない大人の解決策は、英国貴族の余裕を感じさせた。

監督  マイケル・エングラー
出演  ヒュー・ボネビル/ジム・カーター/ミシェル・ドッカリー/エリザベス・マクガバン/マギー・スミス/イメルダ・スタウントン/ペネロープ・ウィルトン
ナンバー  6
オススメ度  ★★★


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