こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

男と女 人生最良の日々

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昨日のことは忘れている。さっきの話をまた繰り返す。だが、愛し合っていたころの記憶だけは鮮明。物語は、認知症を発症した老人をかつての恋人が見舞い、若き日の思い出に浸る姿を描く。レーサーだった男はもう足腰が弱っている。彼にとって最愛の人だった女は、老いてもなお気品を保っている。彼は彼女が誰だか気づくだろうか。気づいていてとぼけているのだろうか。彼が話す53年前の日々は、彼女にとっても貴重な過去。やがてふたりは、彼らにとっての最高の瞬間をなぞる旅に出る。もはや死はいつ訪れてもおかしくない。80年余り生きてきた中で体験した様々な出来事もほとんど失われてしまった。それでもお互いに求めあった感覚は決して色あせない。余命が短くなった時、一途に燃えた時間を思い出せる、そんな幸福感にあふれた作品だった。

老人ホームになじめずいつも一人庭で過ごしているジャン=ルイに会ってくれと頼まれたアンヌは、彼を訪ねる。ジャン=ルイは彼女をアンヌと認識しないまま若き日の熱愛について語り始める。

付き合っていた当時と変わらぬ瞳の輝きと髪をかき分ける仕種。輝くような美しさはないけれど、アンヌは今も上品で女の魅力を発散している。ジャン=ルイもまた帽子とマフラーを欠かさず身に着け、女たらしを自任していたおしゃれ心を失っていない。いくつになっても異性を意識し愛をささやき合うフランス人の、生活の質への貪欲さが印象的だ。恋愛こそが彼らの最大のモチベーションなのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後もアンヌが訪問するたびに、ジャン=ルイは彼女に脱走を持ち掛ける。個性的なクラシックカーがふたりにはぴったりとお似合いで、山道から田舎道を颯爽とかけ抜ける。圧巻は海岸のボードウォークを走らせるシーン。クロード・ルルーシュは、このショットを撮りたいがために再び「男と女」を作ったのではないかと思わせるほど耽美で優雅で至福に満ちた映像だ。こんな風に年を取りたい。こんな風に恋していたい。ふたりは、きっと豊かな人生の指標となるだろう。

監督  クロード・ルルーシュ
出演  アヌーク・エーメ/モニカ・ベルッチ/ジャン=ルイ・トランティニャン/スアド・アミドゥ/アントワーヌ・シレ
ナンバー  19
オススメ度  ★★★


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