挨拶は返してくれる。懐かしいふりはしてくれる。でも、それ以上は決してかかわろうとはせず遠巻きに見ているだけ。わだかまりが残っている。歓迎されていなのはわかっている。それでも父にはきちんと別れを告げたい。物語は、英国のユダヤ人コミュニティを追われたヒロインが父の死を機に帰郷、過去と向き合いつつ因習と闘う姿を描く。故郷を去る原因となった女はこの町で家庭を持ち幸せに暮らしている。気まずい空気が流れているのにやっぱり本心は隠せない。愛したのはただひとり。今も思いはあの頃のまま。そして抑えていた感情が爆発する。キスでは物足りない。気持ちを確認するためには体を重ねるしかない。お互いの性器をまさぐり合い自分の唾液を相手に飲ませるシーンは、心に正直に生きる権利は信仰に優先すると訴える。
NYで活躍する写真家のロニートは絶縁状態だった父の訃報を受けロンドンに戻る。ラビとして地元ユダヤ人社会の信頼を集めていた父はロニートの同性愛を認めず、彼女への遺産は一切なかった。
元恋人のラスティは後継ラビ候補のドヴィッドと結婚している。行きがかり上彼らの家に泊まるロニートは、街を離れたことを後悔も反省もせず新天地で成功している。一方のラスティは不名誉な噂に怯えながら肩身を狭くしてこの街に住み続けている。しがらみにとらわれない道を選んだロニートには、人目を気にして生活するラスティの心情がよくわからない。厳しい戒律を守らなければならないラスティと、その束縛から逃れるためにすべてを捨てたロニート。ふたりの対比は、まったく違う世界に飛び出し異なる価値観に触れなければ創造は生まれないと教えてくれる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
追悼式でスピーチを任されたドヴィッドは、ラビが死の間際に語った言葉の意味を理解する。選択と自由、それは神の意思よりも大切な人間の真実。宗教も時代と共に変わらなければならない。ラビはロニートをとっくに許していた。むしろ一目会いたかったに違いない。哀切漂う映像のラストでみせる光明が救いだった。
監督 セバスティアン・レリオ
出演 レイチェル・ワイズ/レイチェル・マクアダムス/ アレッサンドロ・ニボラ
ナンバー 24
オススメ度 ★★*