こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

薬の神じゃない!

f:id:otello:20200219173925j:plain

最初はカネのためだった。病魔に蝕まれている人々を見ているうちに、天に与えられた使命だと信じるようになった。たとえそれが法を犯す行為であっても。。。物語は、白血病患者のために安価な薬を密輸する男の奮闘を追う。正規薬は非常に高価、薬代のために土地家屋を売り払った者もいる。患者たちに懇願された主人公は単身言葉の通じない異国に渡り、手の届く値段のジェネリック薬を購入し、密航して戻ってくる。だが、正規薬の製薬会社の意を受けた官憲はジェネリック薬を “ニセ薬” として取り締ろうとする。いつしか義侠心が芽生えた彼のそばに寄り添うようなポジションから撮影されたショットは、まるで守護霊の視点で見た世界のよう。法に勝る善意や良心はどこまで許容されるべきかとこの作品は問う。

インドで白血病治療薬を仕入れたチョン・ヨンは患者のリュと共に販路を探す。ダンサーの人脈を通じて患者を集め正規薬の1/8の値段で売ると、患者たちには感謝され完売、チョン・ヨンはインドに飛ぶ。

正規品を売る製薬会社の前では大勢の患者たちが抗議集会を開いている。利益を守りたい製薬会社は聴く耳を持たず、むしろ警察にジェネリック薬の一掃を要求する。このあたり “お上” の権限が強く人民の命が軽んじられている中国社会の本質が強く反映されている。そしてダンスホールでチョン・ヨンが札びらを切るシーンは、自由経済の恩恵にあずかれるのは一部のエリートと成り上がり者だけという現実を象徴していた。やがて商売敵が現れ警察も捜査に本腰を入れるようになり密輸チームは解散する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

1年後リウの妻に頼まれ、チョン・ヨンは再び密輸に手を染める。すでに縫製業で成功していた彼は、今度は儲け抜きで薬を売る。もはや純粋な人助け。自分の都合しか考えなかったチョン・ヨンが大きなリスクを背負ってまでジェネリックの密輸・密売を続ける姿は、人間が正しく生きるとはどういうことかを教えてくれる。大上段に構えるのではなく適度なユーモアを交えた脚本も秀逸だった。

監督  ウェン・ムーイエ
出演  シュー・ジェン/ワン・チュエンジュン/ジョウ・イーウェイ/タン・ジュオ/チャン・ユー
ナンバー  28
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓