こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

無敵のドラゴン

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幼い日に見た九つ頭の龍。自分こそはその力と権威を継ぐ者と自負する男は胸に九頭龍のタトゥーを彫り、強く正しく生きると誓う。物語は、香港警察の捜査員が経験した絶望と再生を描く。連続殺人事件を追ううちに婚約者を失ってしまった。未解決のまま時間が流れるが、もはや彼は魂の抜け殻。ところが、類似事件が発生したのを機に彼は現場に復帰する。香港とマカオ、キャリアとノンキャリ、東洋とそれ以外の文化etc. さまざまな対立項を内包しながらわずかな手掛かりを元に事件の真相に迫っていく過程はほのかなユーモアすら交じる。一方、その間繰り返される格闘アクションはユニーク。特に主人公と女ダンサーが路面電車内で相まみえるシーンは、ポールダンスを応用した上下動と回転を多用して視覚的にもエキサイティングだった。

捜査上のミスで恋人を拉致されたガウは辞職するが、マカオで新たに起きた女性警官殺しで協力を求められる。ガウはマカオタワー内のスポーツジムにアタリをつけ、インストラクターのレディに接近する。

レディは元米兵の格闘家・シンクレアと共にジムを経営している。シンクレアとガウは浅からぬ因縁がある。同時に、ガウはマカオ警察に介入されたり、仲のいい女医の情報提供を受けたりする。そのあたり登場人物の人間関係は中途半端に絡み合ったまま。それでもガウは捜査を続け、シンクレアが犯人だと確信する。ただ、そこに至るまでの展開はきちんとしたプロットもなく撮影中に思いついたようなショットばかりで、いかにも香港映画らしいいい加減さだ。証拠を積み上げ謎を解き明かすなどというミステリーの定石を守るつもりはなく、とりあえずアクションを羅列することで観客の興味をつなごうとする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして、クライマックスはバンジー台での決闘。目がくらむ高所での素手勝負だけでなく、ジャンプ用のゴムロープを使った斬新なアイデアを期待したが、イマイチ物足りない。極めつけは九頭龍のオチ。もしかしてこの作品は、大笑いすべきコメディだったのか???

監督  フルーツ・チャン
出演  マックス・チャン/アンデウソン・シウバ/ケビン・チェン/アニー・リウ/ラム・シュー
ナンバー  65
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://www.twin2.co.jp/distribution/無敵のドラゴン/

人間の時間

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銃を持つ者が権力を握り、弱者はただ死を待つしかない。正論を吐く者は疎んじられ、沈黙を守る者だけが賢者。物語は、異次元に迷い込んだクルーズ船で起きるサバイバルを描く。セックス、ドラッグ、賭博、喧嘩、集団レイプetc. 出港したとたんに無法地帯と化した船上。いち早く権力者をかぎ分けたチンピラたちは私兵となって船内の掌握に乗り出す。乗客たちは抗議の声を上げるが、船員たちは知らんふり。この航行に終わりが見えず、食料備蓄がわずかだと気づいたとき、権力者は強権を発動、従わない者は強制的に排除していく。そこでむき出しになる人間の性癖。もはや理性は通じない、追い込まれた人々がそれぞれの欲望に駆られて平常心を失っていく過程はリアル、厳しい生存競争にさらされた21世紀の韓国社会を強烈に皮肉っていた。

退役軍艦を改造した客船は、国会議員親子、ヤクザとその子分、若者グループ、娼婦、詐欺師、日本人新婚夫婦などを乗せて出港する。ほどなく議員の特別待遇が問題になるが、ヤクザが黙らせる。

ヤクザと政治家、娼婦に夢中の管理者、モラルが欠如した若者。現代ソウルの澱を凝縮したような空間で、日本人青年は抗議の声を上げ不正を糾そうとする。慰安婦・徴用工・竹島問題などで、日本政府が史料をもとにどれほど論理的に史実を説いても、感情的かつ乱暴な拒絶反応しか見せない韓国人という構図が、この作品にも濃厚に投影されていた。日本人青年はヤクザに殺され、妻がヤクザと議員と議員の息子にレイプされるシーンは、日本には何を言ってもといいいう反日種族主義者の主張を連想させる一方、無言の老人は真実を理解していても韓国内では口にできない息苦しさを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、殺し合い・人肉食が始まる。レイプされた日本人妻は妊娠するがその子を産み育てると決意、新世界のイブとなる。ところが、無法者の血を引く彼女の息子は成長すると本性を現す。産み育ててもらった恩を仇で返そうとするエピローグは、近年の日韓関係を見ているようだった。

監督  キム・ギドク
出演  藤井美菜/チャン・グンソク/アン・ソンギ/イ・ソンジェ/リュ・スンボム/ソン・ギユン/オダギリ ジョー/イ・ソンジュ
ナンバー  62
オススメ度  ★★★


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https://ningennojikan.com/

弥生、三月 -君を愛した30年-

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走り出したバスを強引に止め乗り込む。それは運命に流されるのではなく、自分の力で未来を引き寄せると宣言する行為。物語は、高校時代に知り合った一組の男女が紆余曲折を経験しながらも初恋を成就させようとする姿を描く。女は正義感が強く曲がったことは大嫌いだった。男は楽天的でいつも周囲を明るくしてくれた。だが、彼らの人生が輝いていたのは十代のころまで。大人になって挫折を知り、努力してもうまくいかない事例の方が多いと学ぶうちに、彼らは純粋な気持ちをすり減らしていく。それでも相手への想いはくすぶったまま、時間を経ても色あせない。3月に起きた出来事だけを切り取ってつなぐ構成はいささかぶつ切り感があるが、それぞれのエピソードにヤマとオチを持たせる工夫で最後まで飽きさせなかった。

エイズ感染した親友・さくらをかばってクラス全員を敵に回した弥生に、サッカー部のエース・太郎は惹かれ始める。弥生も、さくらの代理で太郎に接近するうちに彼の天真爛漫な魅力に気づく。

ほどなくさくらは亡くなるが、それを機にかえってふたりは距離を縮める。ところがお互いに好きなのに、さくらへの遠慮から告白できず、卒業式の別れ際に仄めかすにとどまる。その後、別の道で各々の夢を追っていても連絡は取りあい、“親友” としての交際は続けている。結婚、破局、停滞、絶望、再生。さまざまな事件が彼らを襲うがそのたびにさくらの墓に報告するふたり。もういないからこそ心の中で生きている。さくらに見守られている自覚が彼らの希望となる展開は、死は決して終わりではないと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

中年になり、もはやふたりとも大志を抱けなくなっている。震災後、過去を捨てた弥生。そんな弥生にさくらの遺言を渡すためあてもなく東京の街を探しまわる太郎。その間、坂本九ヘレン・ケラーといったわかりやすい伏線が効果的に繰り返され、ふたりを導いていく。ただ、出会いから34年、あまりにも長くこじれたプレ恋人期間にもどかしさを感じずにはいられなかった。

監督  遊川和彦
出演  波瑠/小澤征悦/成田凌/黒木瞳/杉咲花
ナンバー  61
オススメ度  ★★*


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https://yayoi-movie.jp/

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒

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大きなお目目に真っ赤な唇、ツインテールをなびかせて颯爽と町を練り歩く。気に食わない奴はブチのめす。邪魔する奴は誰もいない。だって大悪党の彼女だから。物語は、恋人の権威を笠に着てやりたい放題やってきた女が、失恋して庇護を失い、命を狙われるうちに、自立した女に成長していく過程を描く。町中のゴロツキどもに恨みを買っていた。ひとりで相手にするには限界がある。そこで彼女は自分と同じような孤独な女たちと共同戦線を張り、男たちが支配する闇の世界で大暴れする。かわいい女子からセクシーな色気まで目まぐるしく変わる表情と、卓越した身体能力から繰り出される変幻自在の格闘技、気ままだけれども頭の回転は恐ろしく速い。そんなヒロインを演じるマーゴット・ロビーが圧倒的な存在感を見せる。

ジョーカーに未練を残すハーレイは化学工場を破壊して思いを吹っ切る。ある日莫大な財産の隠し場所がしるされたダイヤがカサンドラという少女に盗まれ、町の新ボスに取り返してこいとハーレイは命令される。

スリの現行犯で逮捕されたカサンドラは留置場にいる。警察署に正面から殴り込みをかけたハーレイは至近距離からショットガンを放つだけでなく、型にはまらない体術で並み居る警官たちを蹴散らしていく。そのビジュアルにこだわった映像は、これまでゴッサムシティを舞台にしてきたダークヒーローものとは一線を画し、ポップでキッチュな感覚を前面に押し出す。彼女自身ももちろん暗い過去を持っているのだが、それをおくびにも出さず苦悩や葛藤なども抱えていない風を装っている。そのあたりのキャラクター設定がすっきりしていて痛快だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カサンドラを守ることで新ボスに追われる羽目になったハーレイは、はぐれ刑事や殺し屋、元歌手と手を組み、女5人で新ボスの組織を迎え撃つ。ただ、そこに至るまでいちいち登場人物の来歴を巻き戻すなど構成としてはわかりづらい。ジョーカーの恋人だったハーレイが、彼からどんな影響を受けたのかも知りたかった。

監督  キャシー・ヤン
出演  ユアン・マクレガー/マーゴット・ロビー/ジャーニー・スモルレット/エラ・ジェイ・バスコ/ロージー・ペレス/クリス・メッシーナ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド
ナンバー  59
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://wwws.warnerbros.co.jp/harleyquinn-movie/

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

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乱闘もいとわない1000人の左翼学生が舌なめずりして待ち構えている。敵の本丸にたったひとりで乗り込んだ男は一歩も引かず、言葉だけを武器に彼らの挑発を受けて立つ。圧倒的なアウェイ戦、だが彼は攻撃を受け止めた上で、相手の力を利用した反撃に出る。映画は、1968年に行われた三島由紀夫と東大全共闘の論戦の発掘フィルムを再構成、三島がいかに優れた言論人だったかを検証する。天皇を信奉し自衛隊体験入隊民兵組織を作る筋金入りの右翼の三島と、革命勢力を自任する全共闘。三島という豪速球投手の球をフルスイングで打ち返してやろうと意気込んだ全共闘打線が、予想もしなかった切れ味鋭い変化球に手玉に取られる。そんなたとえがぴったりのやり取りは、スリリングかつエキサイティングだ。

東大駒場キャンパスに招かれた三島は大教室の壇上に立ち、非合法の暴力や決闘の思想といった決意表明のあと、学生の代表と議論する。三島は終始声を荒げることなく彼らの過激な発言を受け流す。

全共闘一の論客と呼ばれる芥がまだ赤ちゃんの娘を抱えたばこをくわえながら三島に質問をする。芥は学生の分際で、文学者としての地位を確立している三島に対し最低限の礼儀すら示さない。既成の価値観をぶち壊すのが左翼的なのだが、この年長者を見下した言動は不快極まりない。おそらく仲間であるはずの聴衆たちも同じ気持ちなのだろう、あくまで紳士的な態度で対応する三島に好意を抱きつつある。芥の言葉は難解な単語を弄するばかりで空疎、対する三島の応答は含蓄に富み思いやりに満ちている。ほどなく芥はステージを去るが、50年経った現在でも負けを認めない芥の往生際の悪さは左翼的醜悪さを体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

三島はあくまで学生たちへの敬意を崩さない。さらに、自分と全共闘が戦っているのは同じ “体制” だと喝破し、共闘を持ち掛ける。理論でも言葉でも実践でも、すべては三島の方が二枚も三枚も上。日本の左翼学生運動家は、あさま山荘で自壊する前に三島の覚悟を見習うべきだった。

監督  三島由紀夫/芥正彦/木村修/橋爪大三郎/篠原裕/宮澤章友/原昭弘/椎根和/清水寛/小川邦雄/平野啓一郎/内田樹/小熊英二/瀬戸内寂聴
出演  豊島圭介
ナンバー  60
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/mishimatodai/

悲しみより、もっと悲しい物語

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一緒にいるととても楽しい。同じ思い出を共有すると充足感を覚える。お互いだけがたったひとりのかけがえのない人。でも長い間同棲しているのに、素直に胸の内を打ち明けられない。物語は、高校時代から付き合い始めたカップルが秘めた思いを遂げようとする姿を描く。彼女には幸せになってもらいたい。余命短い彼は残りの時間を彼女のために使おうとする。一方で、なかなか進展しない彼との仲にいら立ちを隠せない彼女は、ほかの男に乗り換えようとする。だが、ふたりの行動はみな、好きな人により良い人生を送ってもらいたい願いでもある。ふたりとも気づいているのに気づかないふりをする。忖度の上に忖度を重ね、本心は封印する。それが相手のためになっていると信じて。そんな、親友以上恋人未満のふたりの、不器用なまでのやさしさが切なくも悲しい。

父が病死し母に捨てられたKは天真爛漫な魅力を持つクリームに声を掛けられる。クリームもまた交通事故で家族を亡くし天涯孤独の身。ふたりは意気投合し、Kの部屋で暮らし始める。

同じ大学を卒業し音楽業界に就職したKとクリーム。10年も続いているのに、ハグとキスしかしていないとクリームは嘆く。自分が白血病で早死にすると告知されているKは、だからこそクリームには手を出さない。それどころか、彼女がパーティで歯科医のヤンと急接近すると、Kはヤンの恋人に別れてくれと直談判する。非常識なのはわかっている。自分たちの事情しか考えていないと言われても方がない。ヤンとの結婚を決意したクリームの花嫁衣裳選びに同行するKのやせ我慢は仕、いにしえのダンディズムを思い起こさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クリームもまたKを愛する気持ちでは負けていない。Kがもうすぐ死ぬのは知っている。ならばKが思い残すことがないように振る舞うのが思いやりと確信している。あまりにもやさしいけれど、あまりにもややこしい。来世を信じるのはいいが、やはり好きだという感情はストレートに告げるべきだとこの作品は教えてくれる。

監督  ギャビン・リン
出演  リウ・イーハオ/アイビー・チェン/アニー・チェン/ブライアン・チャン/エマ・ウー/ダーチン
ナンバー  52
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://hark3.com/morethanblue/

アントラム 史上最も呪われた映画

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曰く、上映した映画館が焼失した。曰く、出品した映画祭の関係者が変死した。曰く、観客が暴動を起こしたetc. 結果、その映画を見た者は必ず死ぬという伝説だけが広まり、長らく行方不明になっていたフィルムが発見された。物語は、そんな設定の下で呪われた映画を再現する。ドキュメンタリーを装った関係者へのインタビューシーンは神経を逆なでするBGMとともに不安感をあおり、超常現象を否定しないスタンスの話者がさまざまな含みのある持論を展開する。同時に、サイレント時代に描かれた悪魔と地獄の映像を挿入することでさらなる印象操作をする。さらに、本編に当たる部分では何度もサブリミナル効果を狙ったシンボルが現れ不快感を強調する。そう、映画とはイメージを刷り込むことである種の観念を観客に刷り込むメディアなのだ。

幻の映画「アントラム」を入手したマイケルとデビッドは、制作された意図や来歴ついて研究者の意見を聞く。フィルム自体を調べるうちに、この映画には、悪意を持った細工が施されていることがわかる。

そうした前振りの後、映画本編が全編再現される。そこでも、“この映画を見て不幸なことが起きても自己責任で” みたいな警告が映し出されたあと、10歳くらいの少年・ネイサンと18歳くらいの姉が、安楽死させた愛犬の魂を救うために禁断の森に入り、あの世につながる穴を掘り続けるという話が展開される。死の腐臭が濃厚に漂う冥界の出入り口、そこには忌まわしい何かが潜んでいる。70年代風の粗い画質で撮影された映像は、時代の空気をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

姉弟はその後、カルト信者のような2人組に殺されそうになるなど恐ろしい目に合うのだが、その間、フィルムにはさまざまなトリックが仕掛けられている。この作品を鑑賞した夜、ショベルカーに追われ小屋に逃げ込んだが小屋ごと破壊され、坂道に誘い込んでなんとかショベルカーを転覆させて難を逃れるという悪夢を見たが、私の潜在意識にもやはり不吉なイメージがインプットされていたのだろうか。。。

監督  デヴィッド・アミト/マイケル・ライシー二
出演  クリステル・エリング/ローワン・スマイス/シュウ・サキモト/ニコール・トンプキンズ/ダン・イストラテ/サーカス=シャレフスキ
ナンバー  58
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://antrum-movie.com/