こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

LETO -レト-

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ギターをかき鳴らしながら絶叫するバンド、ノリノリの曲に会場のボルテージは最高潮に達している。ところが、聴衆は座席に行儀よく座り、せいぜい体をゆすってリズムを合わせる程度。少しでも立ちあがろうとしたり手を振ったりするとたちまち係員が飛んできて注意される。物語は、まだ社会主義の威光がわずかに残っていた1980年代ソ連、ロックスターに見出された若者の恋と成功を追う。欧米のロックはなかなか聞く機会に恵まれない。オープンリールの録音機で再生した音源から歌詞を書き出してその意味を考える。それは紛れもない労働者階級の歌なのに当局は敵視している。一方、自分の言葉で表現しようとしても甘いポエムの風の詞しか浮かばない。そんな、西側のポップスに憧れる若者たちのちょっとぬるい懐かしの日々が名曲と共に再現される。

人気抜群のグループのボーカル・マイクは、パーティで知り合った若者・ヴィクトルの歌に才能を感じ、チャンスを与える。並行して、マイクの妻・ナターシャとヴィクトルはお互いに惹かれあっていく。

古臭いイデオロギーに支配された硬直した社会、若者たちは英米のロックで息抜きをしている。一応マイクのようなロックンローラーも誕生しているが、いくら熱狂的ファンがついても一般人並の報酬しか得られない。それでもヴィクトルに代表される次の世代を担う若者が育っている。ペレストロイカはもう数年先だけれど、確実に時代は変わりつつある。列車の中でおっさんがロッカーたちに因縁をつけるシーンは、自由を求める若者の気持ちはもう後戻りできないことを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画はヴィクトルの魂の叫びや強烈な上昇志向、恋愛や創作の苦悩にはフォーカスせず、散文的な構成に終始する。端正なモノクロイメージに時おり落書きを施した処理をしたり、当時の大ヒットナンバーを再録してみたり。映像と音楽は見事にコラボしていたが、ヴィクトルの成長とチャレンジ、挫折と再生といった青春の輝きや切なさとは無縁。もっとストリー性が欲しかった。

監督  キリル・セレブレンニコフ
出演  ユ・テオ/ローマ・ジヴィエ/イリーナ・ストラシェンバウム
ナンバー  119
オススメ度  ★★


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http://leto-movie.jp/

コンフィデンスマンJP プリンセス編

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アジア屈指の大富豪が死んだ。遺産相続人は誰にも知られておらず、生死すら定かでない婚外子。物語は、国際的詐欺師グループが大掛かりな窃盗を企む過程を描く。身寄りのない娘を相続人に仕立て上げる。ターゲットの懐に入り込み情報を収集する。そして完璧な偽装を施して、勇躍敵地に乗り込む。ところが要塞のような大豪邸では、四六時中ボディガードに付きまとわれ、挙句の果てには命まで狙われる羽目になるが撤退戦は不可能、ならばと一族に伝わるお宝に標的を変える。王宮に劣らない広大な邸宅、一切を仕切る執事、豪勢なパーティetc. 目に見えるものすべてにカネがかかっている、これぞスーパーリッチの世界。だが一皮むけばどろどろとした欲望が渦巻いている。そんな心理に付け込む詐欺団のはしゃぎっぷりは、下世話なバラエティ番組を見ているようだった。

こっくりに相続人・ミシェルを演じさせシンガポールのフウ家を訪れたダー子だったが、手切れ金をもらい損ねた上、3か月後の後継者披露パーティまで厳しい監視の下で軟禁状態に置かれる。

フウ家の3人姉弟は当然ミシェルを敵視し排除に動く。執事のトニーはDNA鑑定以外の方法でもミシェルの真贋を調査する。お披露目まで脱出は無理と判断したダー子たちはパーティ会場で一族の玉璽を盗む計画に変更、準備に勤しむ。やがて孤島でのパーティが始まると、ダー子は乾坤一擲の勝負に出る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、トリックが複雑なようで単純で、後づけのネタ晴らしが繰り返されるのにはうんざりする。また、セキュリティ厳重な島に画家や爆弾男が潜入するなど設定も適当。あらゆるところに仲間を配置する一方、思わぬ敵対勢力の介入で危機一髪に陥ってもなぜか対抗策が用意してあるなど、付け焼刃的な対応ばかり。俳優の演技もいちいち大げさで、演出もわざとらしく鼻につく。作品のクオリティよりもTVドラマのようなノリを優先する、いかにもフジテレビらしいアプローチだが、観客がスクリーンに集中する映画というメディアには向いていない。

監督  田中亮
出演  長澤まさみ/東出昌大/小手伸也/小日向文世/関水渚/ビビアン・スー/白濱亜嵐/古川雄大/柴田恭兵/北大路欣也/三浦春馬/江口洋介
ナンバー  116
オススメ度  ★★


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https://confidenceman-movie.com/

アルプススタンドのはしの方

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あんまり乗り気ではなかったのに、学校の方針で仕方なく来てしまった。ルールも知らない野球、でも必死でボールを追っている選手たちを見ているうちに、少しずつ胸の奥にくすぶっていたものに火がつき始める。物語は、夏の全国大会に出場した野球部の応援にきた高校生たちが、前向きに生きる姿勢を取り戻していく姿を描く。挫折から立ち直れなかった。しょうがないとあきらめていた。違う道を探しているけれどまだ見つからない。自分の不始末が申し訳ない。四者四様の葛藤を抱えながら熱のこもらない声援を送る彼らの心を占めているのは報われない思い。一度の失敗で自信をなくし、再度チャレンジする勇気を失っている。そんな4人がそれぞれの本音を吐き出し、お互いを理解し決意を新たにしていく過程は、若さの持つ可能性を示していた。

演劇部のあすはとひかる、元野球部員の藤野、秀才だがネクラの宮下は、応援団には加わらずスタンドのはしの方に屯している。暑さに参りながらも次第に試合に興味を持つようになる。

友達がいない宮下に声をかけるひかる。宮下とかつて授業でペアを組んだあすはは彼女にいい印象を持っていなかったが、逆に宮下はあすはに感謝している。己の気持ちをうまく表現できない宮下の不器用さが、絆とか友情とか仲間といったキーワードに馴染めない人々の孤独を象徴していた。また、藤野はいくら努力してもライバルに敵わないと知ると野球部をやめたが、超下手くそだが練習の虫の同級生を見下すことでかろうじてプライドを保っている。あすはとひかるも積極的に行動に移せないままでいる。みな素直になれず悶々としているあたり、進路選択を迫られた高校3年生の悩みがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

希望や理想を追い求め全力疾走するだけが青春じゃない。蹉跌・失恋・不満・敗北。それら叶わなかった願いも含めて、乗り越えるエネルギーが無限にあるのが彼らの特権。グラウンドでプレーする選手を通じて、それを引き出すきっかけをつかんだ彼らの夏はまぶしかった。

監督  城定秀夫
出演  小野莉奈/平井亜門/西本まりん/中村守里/目次立樹/黒木ひかり
ナンバー  118
オススメ度  ★★★*


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https://alpsnohashi.com/

海底47m 古代マヤの死の迷宮

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慣れない海中で迷ってしまった。音に反応する巨大人食いサメが周辺をうろついている。やっと見つけた出口は潮が速い。酸素は残り少なくなってきた……。物語は、スキューバダイビングで禁断の地に侵入した女子高生4人がサメと闘いながら脱出を図る過程を描く。誘われるまま来てしまった。ノリが悪いと思われるのが嫌で虚勢を張っていた。帰路を示すロープも用意していない。そして、建造物が崩壊し海底泥で視界がなくなるとたちまちパニックになる。それでも最後まで冷静さを失わなかったのは内気で根暗ないじめられっ子。無鉄砲な冒険の中、少女たちが本性をあらわにしていく過程で、彼女は状況を見極め何をすべきかの判断を的確に下していく。その劇的な変化は、危機が人を成長させると教えてくれる。

アレクサ、ニコル、サーシャ、ミアの4人は森の奥にある隠れスポットから続く海底洞窟を探検、その先の古代文明の遺跡を訪れる。そこは人形や人骨が散乱する集団墳墓、光は届かず魚類の目は退化している。

後先考えず前にやっちゃうのが若さの特権とばかりにどんどん進むアレクサとニコル。慎重な性格のミアは殿を務めるがみなとはぐれてしまう。遺跡の調査中だったベンと遭遇するが、ベンはあっさりとサメの餌食になる。また遺跡に戻り3人と合流、その間も彼女たちの周りを複数のサメが泳ぎ回っている。何度も追いかけられるがそのたびに狭い場所に逃げる。このあたり、暗い水中で突然ライトに浮かび上がる目無しサメの顔が非常に不気味で、この地に葬られた死者の念が彷徨っているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、助かったかと思うとサメに襲われる。せっかく洞窟の入り口にたどりついても自己チューな行動が命取りになったり、潮流に押し流されたり、ボンベの酸素がなくなったりする。ところがミアはいつしか性根が座り、必ず生きて帰る決意を固めている。やっと水面に出てもサメだらけ、胴体に噛みつかれても怯まず反撃する彼女の勇気は、恐怖を克服した者だけが死を逃れられると訴える。

監督  ヨハネス・ロバーツ
出演  ソフィー・ネリッセ/システィーン・スタローン/ニア・ロング/コリーヌ・フォックス/ブリアンヌ・チュー/ジョン・コーベット
ナンバー  117
オススメ度  ★★*


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https://gaga.ne.jp/47m_maya/

ジョーンの秘密

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もう遠い昔の話と記憶の底にしまっていた。誰にも話さず墓場まで持っていくつもりだった。だが、秘密を共有していた仲間が死んだとき、過去は突然現実となって彼女の前に立ちはだかる。物語は、英国原爆開発チームの資料整理係として働いていた女の愛と苦悩を描く。ロンドンにもコミュニズムの嵐が吹き荒れていた1930年代、初めてできた友人と愛した男はソ連のスパイだった。彼らとの仲が深まるにつれ後戻りできなくなった。それでも祖国は裏切れない。様々な脅迫や誘惑に身をさらしながらもひとりで悩むヒロインは、やがて不倫の恋に落ちてしまう。そして、自分の仕事が大量破壊兵器の開発だった知ったとき、彼女は信念に基づいた行動を取る。決して過ちを認めない老婆をジュディ・デンチが貫録たっぷりに演じる。

第二次大戦時の機密漏洩で逮捕されたジョーンは、捜査官から60年以上前のケンブリッジ大学時代の経歴について取り調べを受ける。成績抜群のジョーンはデイヴィス教授の研究室に採用される。

ソニアやレオとともにコミンテルンの会合に顔を出していたジョーンだったが、次第にレオから機密を盗み出せと要求されるようになる。共産主義に共感できないジョーンは利用されているだけと悟り、レオと絶縁するとともに教授と深い関係になる。このあたり、優秀な頭脳を持ちながらも確固たる思想を持っているわけではないジョーンの、“男に愛されてこそ女の幸せ” という価値観に押しつぶされそうになる姿が健気だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジョーンは息子に弁護を護頼む。ところが息子は初めて聞かされるジョーンの罪に怒りと戸惑いを隠せない。母親は売国奴だったのか、ずっと世間と家族を欺いてきたのか。それでもジョーンの尋問に立ち会ううちに、彼女の言い分にも一理あり、良心に基づいた行為だったと納得する。己の利益や名誉のためではない、市民の命が奪われることへの純粋な嫌悪感。最後まで謝罪や反省の言葉を口にしないジョーンの覚悟が、時代の荒波を生き抜いた女の力強さを象徴していた。

監督  トレバー・ナン
出演  ジュディ・デンチ/スティーブン・キャンベル・ムーア/ソフィー・クックソン/トム・ヒューズ/ベン・マイルズ/テレーザ・スルボーバ
ナンバー  83
オススメ度  ★★★★


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https://www.red-joan.jp/

ブリット=マリーの幸せなひとりだち

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整理整頓、習慣と日課、やるべきことリストを常に持ち歩き家事は完璧にやり遂げる。でもいつもしかめっ面で冗談も通じず、一緒にいると気づまりになるばかり。物語は40年以上も主婦業に専念してきた老女が夫の浮気を機に新たな人生に挑戦する姿を描く。就業経験のないヒロインがやっと紹介してもらえたのは青少年センターの管理と少年サッカーチームのコーチ。もう後戻りできない彼女は、サッカーのルールも理解しないまま引き受ける。家庭内は知り尽くしていても世間知はゼロに近い、しかも生意気な子供たちにも相対しなければならない。63歳にして初めて生活のために働く体験した彼女が、周囲の人々に支えられて徐々に環境に馴染んでいく過程は、何歳になっても人間は成長できると教えてくれる。

田舎町にひとりでやってきたブリットは、荒れ果てたユースセンターに寝泊まりしながら子供たちにサッカーを教える日々。しかし、コーチのライセンスがないのを理由に廃止を宣告される。

散らかり放題の物置や娯楽室を片付けるところから始めるブリット。子供たちは完全にブリットを舐め切っていてほとんど言うことを聞かない。エースストライカーのヴェガを除いて練習もあまりやる気がなく、サッカーは遊び程度の認識しかない。だが少しずつコーチ法を学び実践していくうちに子供たちから理解されるようになる。思い通りにはいかないけれど、毎日進歩はしている。そんな実感がブリットを生き生きと変えていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが思わぬ横やりが入り、サッカー大会の出場が危ぶまれる事態になる。そこでヴェガに意見を求めるブリット。10歳の少女にあきらめずに戦えと諭されるシーンは、ブリットがいかに困難を避けた日常を送ってきたかを暗示する。そして、勇気を振り絞ったブリットは、村人たちとコミュニケーションを取り難局を乗り切っていく。最高の結果は出なかったけれど最善は尽くした。やり切った感があふれ眉間から険が取れたブリットの柔らかな表情が、彼女の明るい未来を象徴していた。

監督  ツヴァ・ノヴォトニー
出演  ペルニラ・アウグスト/ペーテル・ハーベル/ウッレ・サッリ/ベラ・ヴィタリ
ナンバー  115
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://movies.shochiku.co.jp/bm/

悪人伝

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プロレスラーのごとく鍛え上げられた上半身と鋭い眼光の悪相。ひとにらみするだけで素人を震え上がらせるほどの迫力を持つ風貌は、いかにも修羅場をくぐってきたギャングにふさわしい。マ・ドンソク扮する主人公の存在感は、そのまま圧倒的なエネルギーとなってスクリーンにほとばしる。物語は、連続殺人犯に襲われた暴力団のボスがはぐれ刑事と協力して犯人を追う過程を描く。夜道で刺されたのは偶然、だが部下が暴走し緊張関係だった敵対組織に殴り込みをかける。刑事は捜査に行き詰まり、唯一の犯人目撃者であるボスを頼らざるを得ない。普段は憎み合っている同士、それでもルールを決め小康状態は保っている。そんな彼らをあざ笑うかのように殺人犯は犯行を繰り返す。共闘しても競争もする。どちらが早く犯人を確保するかけん制しながら助け合う、ボスと刑事の人間関係の距離感が絶妙だった。

全身を刺され重傷を負ったドンスは、組織を使って犯人探しを始める。連続殺人事件を追っていたテソクはドンス襲撃犯が連続殺人鬼と目星をつけ、ドンスに情報交換を持ち掛ける。

お互いに毛嫌いしているが、相手が持つネタやマンパワーは欲しい。取引を持ち掛けても信用しているわけではない。あらかじめ裏切りを予測してテソクとの会話を隠し録り・撮りするドンスは用心深い。直情径行型のテソクはむしろドンスがいなければ身動きがとれない。そのあたりドンスは狡猾、裏社会で文字通り命を張って生きてきた彼の用意周到さと、警察機構に守られてきた公務員にすぎないテソクとの “覚悟” の差が好対照で、ドンスに感情移入したくなる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて尻尾を現した犯人は組織と警察双方に追い詰められる。ドンスは当然裏社会の掟で犯人を裁こうとするがテソクは法に委ねようとする。ところが状況証拠ばかりでドンスに証言させなければ有罪にはできない。自分勝手な行動しかとれないテソクよりも、組織トップの責任とメンツを保とうとするドンス。どんな社会でも地位が人を作るとこの作品は教えてくれる。

監督  イ・ウォンテ
出演  マ・ドンソク/キム・ムヨル/ユ・スンモク/キム・ユンソン/キム・ソンギュ
ナンバー  114
オススメ度  ★★★


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http://klockworx-asia.com/akuninden/