こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

浅田家!

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「変わっているけど、なんかいいよね」。消防士、レーサー、ヤクザ、ヒーローetc. “なり切りコスプレ写真” を撮る一家を人はそう評する。“普通” より少し先を行っていたけれど、親子・兄弟が気遣いながら楽しんでいる姿は理想の家族像でもある。物語は、ユニークな写真で脚光を浴びた写真家が、未曽有の震災を通じて己と被写体の関係を見つめなおす過程に迫る。彼がレンズを向けるのは常に家族。その家族がいちばん幸せに思える時間を再現する。それは撮られる側にとっても、家族の歴史とお互いをどれだけ思っていたかを問われることでもある。世間の常識にとらわれたりはしない、それでも家族はかけがえのないものという信念は非常に強く意識している。そんな主人公を二宮和也が肩の力を抜いて演じ、飄々として魅力的だった。

父からもらったカメラで写真を撮り始めた政志は、写真学校卒業後、自分の家族の写真集を制作する。東京で個展を開くと出版社社長の目に留まり、出版された写真集は有名な賞を取る。

家族写真専門のプロカメラマンになった政志は、注文があれば日本全国に足を延ばし依頼をこなしていく。そこで大切にするのは設定。インタビューを重ね、世界観を作りこみ、あふれんばかりの光のなか夫婦・親子の愛情がほとばしる瞬間を切り取っていく。政志は写真が人生を語ると確信し、仕事の幅を広げていく。余命短い子供のために虹を描こうとする家族の笑顔が哀切を誘う。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大震災後、最初の客を訪ねて被災地に入った政志は津波で汚れた写真を洗浄する青年と出会い、手伝い始める。ぼろぼろのアルバムから一枚ずつ写真を抜き出し水洗し、乾かし、展示する。生き残った被災者が、壁一面の写真から、故人の思い出が詰まった写真をすがるように探し、見つけたときの慟哭は、家族こそが最も頼れる存在なのだと教えてくれる。だからこそ、心の支えを失った人々に写真だけでも返してあげたい。そう願いながら作業を続ける政志の背中には、彼の人間としての成長が凝縮されていた。

監督  中野量太
出演  二宮和也/妻夫木聡/黒木華/菅田将暉/風吹ジュン/ 平田満/渡辺真起子
ナンバー  169
オススメ度  ★★★*


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https://asadake.jp/

プラスチックの海

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砂浜に打ち上げられたニタリクジラの腹から出てきたのは大きなビニールシート。海岸で力尽きた渡り鳥の胃はプラスチックの小片でパンパンに膨らでいる。飲み込んでも消化されず排出もできないまま、動物の消化器に留まり、命を奪うプラスチックゴミ。カメラは大量に海洋放棄されるプラゴミが原因の生態系の破壊と、人間の生活に及ぼす影響を追う。ペットボトルを始めあらゆる商品の容器として非常に便利なプラスチック。発展途上国などでは住民の意識も低く、川にそのまま捨てられる。劣化し細分化しても完全に分解されることはなく、海に流れて海生生物の体内に入る。映画はその過程を通じて、人類が今何をすべきか何をやめるべきかを問う。

シロナガスクジラが回遊するスリランカ沖の海域、陸地から30キロ以上離れているのに海面は薄い油膜に覆われ小さなプラゴミが浮遊する。海底にはまだ砕けていないゴミが沈殿している。

微細になったプラゴミをプランクトンが食べ、そこから食物連鎖を経て大型生物に蓄積されていく。日本人は魚の内臓を取るから大丈夫なのかと思いきや、プラスチックの毒性は食用の身の部分にも浸透していて、やはり無事ではいられない。一方、アジア・太平洋の貧困地域の人々はゴミの山の上に掘っ立て小屋を建て暮らしている。彼らは発がん性物質にさらされ不妊症の発生率も高い。米国と中国、2超大国がプラゴミの一大発生源である現実を考えるに、両国の指導者はもっと海洋汚染への関心を高めるべきだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

南太平洋の島国・ツバルの現状にプラゴミ問題が凝縮されている。地球温暖化に関連付けられた海面上昇で国土が侵食されているだけではない。そもそもこの国にはゴミ処分場がなく、あらゆるゴミは第二次世界大戦中に米軍が掘った穴に放り込まれるだけ。人類が何もせず手をこまねいていると、地球全体がツバルになるとディレクターは警告する。いずれにせよ、まず日常からプラスチックの使用を減らす、文明社会にどっぷりと浸かった我々にできるのはそれだけだ。

監督  クレイグ・リーソン
出演  クレイグ・リーソン/デビッド・アッテンボロー /シルビア・アール/タニヤ・ストリーター/リンジー・ポルター
ナンバー  166
オススメ度  ★★★


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https://unitedpeople.jp/plasticocean/

フェアウェル

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大好きなおばあちゃんには心安らかに最期を迎えてほしい。そのためには幸せ芝居を続けるべきなのか、真実を話し残りの時間を悔いなく過ごしてもらうべきなのか。物語は、余命わずかと診断された祖母のもとに集まった家族の愛を追う。米国育ちの孫娘は率直な態度を好み打ち明けようとする。ところが、一族のルーツ・中国では死期を本人に知らせるのは重大なマナー違反。固く口留めされた彼女は、秘密にするのが祖母のためとはどうしても思えない。個人を尊重する米国人と、個人は家族の一部ととらえる中国人。考え方は米国人なのに見た目は中国人、自らのアイデンティティに葛藤するヒロインを、オークワフィナが終始不機嫌なへの字で演じる。米国では中国人であることを気にしていないが、中国では強く意識せざるを得ないのだ。

北京に住む高齢の祖母・ナイナイの肺がんがステージ4に進み、NYのビリーと両親は里帰りする。だがナイナイには別の孫の結婚式出席ために彼女たちが戻ってきたと伝えていた。

時々体調を崩したりもするが、普段は精力的に動き回るナイナイ。とても重病を患っているようには見えない。ビリーは主治医からナイナイの病状を直接聞きだし、やっぱりナイナイに告知すべきと思うようになるが、一族はみな反対。すぐに喜怒哀楽が表情に出てしまうビリーは、ナイナイの前で必死にいい孫であろうとするが、嘘をついている自分が後ろめたい。このあたりの繊細な感情が中国一般家庭のさまざまな儀式や行事と共に再現され、いまだ孔孟の教えを是とする中国人の道徳習慣を浮き彫りにしていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ビリーと彼女の両親たちだけでなく叔父一家も日本に移住している。中国に残った祖父母の世代、中国を故郷と考える親世代、そしてもはや中国は異国でしかないビリーたちの世代。再開発ですっかり変わってしまった北京の街並み同様、人々の趣味嗜好も西洋流になりつつある。政治的には反米でも一般市民レベルでは祖国の捉え方は様々。そんな現代中国人の混沌がリアルに描かれていた。

監督  ルル・ワン
出演  オークワフィナ/ツィ・マー/ダイアナ・リン/チャオ・シュウチェン
ナンバー  168
オススメ度  ★★★


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http://farewell-movie.com/

オン・ザ・ロック

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ビジネスに忙しいけれど家族思いの夫、ふたりの子供はかわいい盛り。でも、物書きの仕事はイマイチ波に乗り切れない。物語は、夫の浮気を疑うヒロインが実父と共に証拠を集めるうちに人生に必要なことに気づいていく過程を描く。女とみればすぐに口説こうとする父は、親としては最低だが男としては魅力的。恋愛における男女の機微を知り尽くし、不倫男の心理を分析する。彼女はそんな父が頼もしく思えたり、負担に感じたりもするが、基本的に父娘仲は良好。父みたいな男を頭では軽蔑しているのに心では一緒にいる時間を楽しんでいる。数多の女に手を出し、女心を操る術を心得た父をビル・マーレイが飄々と演じ、NY富裕層のハイソなライフスタイルを垣間見せてくれる。クラシカルなオープンカーで夜の街を疾走するシーンが洒落ている。

出張帰りの夫・ディーンの荷物から女性用ボディオイルを見つけたローラは、父・フェリックスに相談する。フェリックスは早速ディーンの身辺調査を始め、部下の美女と付き合っていると言い出す。

フェリクスから男の本能について聞かされるほどローラの疑惑は深まっていく。スマホメメッセージをチェックしたり尾行・張り込みをしたり、決定的証拠は見つけられないにしても状況的には限りなく黒に近い灰色。ディーンとの将来を案じながらも、フェリックスに振り回される刺激的な日々に、いつしかウキウキしているローラ。在宅ワークで子供の送迎以外は外出する機会が少ないローラにとって、「非日常」がもたらすドキドキ感がいかに大切かをフェリックスは教えようとする。強引にも見えるフェリックスの誘い方は、実は娘を心配する父親の愛情表現なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして、ディーンが部下と共にメキシコに出張する情報をつかんだフェリックスは、ローラを連れて乗り込み、そこでまたひと騒動起こす。妻と夫、永遠に分かり合えない男と女の勘違いと早とちり。同じような題材を扱ってもウディ・アレンならもっと洗練された味わいを醸し出していたに違いない。

監督  ソフィア・コッポラ
出演  ビル・マーレイ/ラシダ・ジョーンズ/マーロン・ウェイアンズ/ジェニー・スレイト/ジェシカ・ヘンウィック
ナンバー  167
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://ontherocks-movie.com/

鵞鳥湖の夜

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篠突く雨、闇に浮かび上がるネオン、薄布に投影されたシルエットetc. まとわりつくような湿度を持った映像は、運命に翻弄され不運に絡めとられていく男女の退廃に満ち、ノワールな世界観に見る者をいざなう。物語は、逃亡中の指名手配犯が妻に会おうと奔走する姿を描く。些細ないざこざが原因だった。不注意で警官を殺してしまった。大捜査網が敷かれ、対立するギャングからも追われている。頼れるのは赤い服の女だけ。だが彼女も信用できるかどうかわからない。そんな状況で、愛した証を妻に残そうとする男の、傷だらけになりながらも走り続ける背中が哀しい。街中の広場で男女が出会い系ダンスパーティを開く場面で、周縁が光る靴で踊る男たちの足元が蛍を連想させるほど幻想的で美しく、人生の儚さを象徴していた。

誤って警官に発砲し死なせてしまったザーノンは、開発から取り残された観光地・鵞鳥湖に潜伏する。その地の商売女・アイアイの仲介で妻に会おうとするが、妻はザーノンを恨んでいた。

もう逃げきれないのはわかっている。ならば自分にかけられた報奨金を妻が受け取れるようにできないか。ザーノンはアイアイを利用していろいろ画策するが、深手を負っていて思い通り事は運ばない。報奨金の横取りを狙うギャングたちもザーノンの行方を探している。その過程で、隠れ家に襲撃をかけてきたチンピラをビニール傘で突き刺し、開いた傘の内側に鮮血が飛び散るシーンがあるが、死の臭いを強烈に発するこの作品のエッセンスが濃厚に凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、1930年代の映画のごとき表現主義に偏ったカメラは、ザーノンの苦悩や絶望、アイアイの不安や焦燥に迫ろうとはせず、どこか他人事のような距離感。さらに、それらの構図やショットは過去に見たことがあるものばかりで、ユニークさにも欠ける。単純なエピソードなのにあえて含みを持たせ描写するのはなぜだろう。あと、ザーノンの死体を囲んで刑事たちが記念撮影するのにも驚いた。中国警官の人権意識がこれほど低いとは。。。

監督  ディアオ・イーナン
出演  フー・ゴー/グイ・ルンメイ/リャオ・ファン/レジーナ・ワン
ナンバー  165
オススメ度  ★★*


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http://wildgoose-movie.com/

クライマーズ

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確かに頂を極めた。国中のヒーローとなった。だが証拠となる映像はなく、外国人は信じてくれない。やがて国内からも嘘つき呼ばわりされる。物語は、北側から世界最高峰を目指す中国登山隊の奮闘を描く。栄光と挫折、十数年の時を経て登攀隊のリーダーとなった登山家は、汚名を雪ぐために再び準備を始める。高地に作られた訓練キャンプ、酸素が薄い環境下でのハードトレーニング、ほのかな恋。全国から選抜された若者たちはみな使命感に燃えている。党と指導者の期待に応えようと努力している。己の任務をまっとうするためにあらゆる私欲を捨て、少しでも貢献しようと自己犠牲を厭わない。そして誇らしげにはためく五星紅旗。これほどまでプロパガンダに染まった作品を久しぶりに見た。

1960年にチョモランマ登頂を果たしたウージョウは、ボイラー技士として静かに暮らしていた。1973年になってチョモランマ登山隊が再結成、ウージョウはかつての仲間と共に招集される。

恋人にプロポーズしようと廃工場に誘い、命綱もなしに建物の外壁を登るウージョウ。重力を感じさせない軽業師のような身のこなしで屋上まで素早く移動する。重い荷物を背負っていないときの登山家の、驚異的な身体能力に目を見張る。また、訓練キャンプでは、若い候補生がへばっているのを尻目にサーキットトレーニングを圧倒的なタイムでゴールする。そのスタミナと瞬発力には思わずのけぞった。この時ウージョウはすでにアラフォーのはず。命がけの国家プロジェクトで指揮を執るには超人的な体力知力判断力が要求されるとウージョウの背中は語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

北京五輪の頃から気になっていたが、ジャッキー・チェンはこの作品で明らかに共産党政府を支持する立場に回った。香港映画の顔ともいうべき偉大なカンフースターが、故郷の民主主義が奪われつつあるときに何を考えているのだろう。彼の信条は否定しないが、映画とは、影響力の大きさから、表現の自由を求めて戦ってきた歴史があるメディアであることを忘れてはならない。

監督  ダニエル・リー
出演  ウー・ジン/チャン・ツィイー/チャン・イー/ジン・ボーラン/フー・ゴー/ワン・ジンチュン
ナンバー  163
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://climbers-movie.com/

映像研には手を出すな!

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イデアはある。想像はどんどん膨らむ。協力者も現れた。だが、予算はなく、締め切りまでわずかしか時間がない。映画は、学園祭での公開に向けて短編アニメを制作する女子高生たちの奮闘を描く。見たもの聞いたことから次々とインスピレーションが湧くディレクター志望の人見知り少女、抜群の筆力で具体的な画に仕上げる美少女モデル、彼女たちを束ね方向性を示すリーダー。設定に説得力を持たせるためのディテールからユニークな展開、リアルな音響まで、人を喜ばせる作品を創る工程をコミカルなタッチで再現した映像は、少女たちの青春物語の一面も持つ。サウンドディレクターがバトルシーンの効果音を披露する場面は、まるで目の前にその光景が浮かび上がるような素晴らしい出来栄えだった。

部活動の統廃合が進む高校で、みどり、ツバメ、さやかの3人は映像研を存続させるためにロボ研と提携する。巨大ロボ対怪獣のアニメを作り始めた彼らの前にはさまざまな障壁が立ちはだかる。

天才的なひらめきと連鎖反応のように妄想があふれ出す一方で、見知らぬ人から話しかけられると目を回してしまうみどり。一般的な常識や世間知にまったく触れずに生きてきた彼女の特異なキャラを、齋藤飛鳥が圧倒的な個性で演じている。生徒会が強権支配する高校で自分たちの権利のために戦うファンタジックな世界観の中、シャイで舌足らずで思い込みが激しいけれど一度決めたらやり抜く頑固さも持つ彼女の存在が一頭地を抜いていた。そして、ツバメは友達ではなくあくまで志を同じくする仲間。さやかは目標のためには厳しさを前面に出し、決して2人を甘やかしたりはしない。そのあたりの塩梅が「お仕事」ものとしても楽しめた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

尻に火が付いた3人は、生徒会の “徹夜取り締まり” の裏をかきなんとかアニメを完成させる。彼女たちの思いが詰まったアニメは、自由にものが考えられて表現できる喜びに満ちていた。それにしても人工台風発生マシンはみどりたちとどういう関係があったのだろうか。。。

監督  英勉
出演  齋藤飛鳥/山下美月/梅澤美波/小西桜子/グレイス・エマ/福本莉子/桜田ひより/浜辺美波/髙嶋政宏
ナンバー  164
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://eizouken-saikyo.com/