「変わっているけど、なんかいいよね」。消防士、レーサー、ヤクザ、ヒーローetc. “なり切りコスプレ写真” を撮る一家を人はそう評する。“普通” より少し先を行っていたけれど、親子・兄弟が気遣いながら楽しんでいる姿は理想の家族像でもある。物語は、ユニークな写真で脚光を浴びた写真家が、未曽有の震災を通じて己と被写体の関係を見つめなおす過程に迫る。彼がレンズを向けるのは常に家族。その家族がいちばん幸せに思える時間を再現する。それは撮られる側にとっても、家族の歴史とお互いをどれだけ思っていたかを問われることでもある。世間の常識にとらわれたりはしない、それでも家族はかけがえのないものという信念は非常に強く意識している。そんな主人公を二宮和也が肩の力を抜いて演じ、飄々として魅力的だった。
父からもらったカメラで写真を撮り始めた政志は、写真学校卒業後、自分の家族の写真集を制作する。東京で個展を開くと出版社社長の目に留まり、出版された写真集は有名な賞を取る。
家族写真専門のプロカメラマンになった政志は、注文があれば日本全国に足を延ばし依頼をこなしていく。そこで大切にするのは設定。インタビューを重ね、世界観を作りこみ、あふれんばかりの光のなか夫婦・親子の愛情がほとばしる瞬間を切り取っていく。政志は写真が人生を語ると確信し、仕事の幅を広げていく。余命短い子供のために虹を描こうとする家族の笑顔が哀切を誘う。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
大震災後、最初の客を訪ねて被災地に入った政志は津波で汚れた写真を洗浄する青年と出会い、手伝い始める。ぼろぼろのアルバムから一枚ずつ写真を抜き出し水洗し、乾かし、展示する。生き残った被災者が、壁一面の写真から、故人の思い出が詰まった写真をすがるように探し、見つけたときの慟哭は、家族こそが最も頼れる存在なのだと教えてくれる。だからこそ、心の支えを失った人々に写真だけでも返してあげたい。そう願いながら作業を続ける政志の背中には、彼の人間としての成長が凝縮されていた。
監督 中野量太
出演 二宮和也/妻夫木聡/黒木華/菅田将暉/風吹ジュン/ 平田満/渡辺真起子
ナンバー 169
オススメ度 ★★★*
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