こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち

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走り、跳び、クルマを操り、バイクを疾走させ、格闘し、時に火だるまになる。擦り傷、切り傷、打ち身、骨折は日常茶飯事、死亡事故につながることもある。そんな彼女たちの顔は決してスクリーンに映されることはない。それでも続けられるのは、肉体を駆使した自己表現ができるから。カメラはハリウッドのアクション映画を陰から支えてきたスタントウーマンたちにスポットを当て、その歴史と現状に迫る。無声映画時代から危険なシーンで女優の代役を務めてきた。20世紀半ばは暗黒の時代、男たちに仕事を奪われた。だが、70年代になって “戦う女” が登場すると、彼女たちの出番が増えた。レジェンドともいえるかつてのスタントウーマンが語る思い出話は含蓄に富み、この業界のパイオニアとしての苦労が凝縮されていた。

1970年代以降、女ヒーローが生まれるとスタントウーマンの需要は伸び、「ワンダー・ウーマン」や「ロマンシング・ストーン」、「スピード」などで活躍する機会を与えられる。

だが、「ロボコップ」のポール・バーホーベンはスタントウーマンでは満足な画が撮れず、スタントマンを使ったと証言する。それでも21世紀になって「マトリックス・リローデッド」のバイクチェイスシーンに見られるように女たちの技術は格段に進歩する。その陰にはたゆまぬ鍛錬がある。彼女たちが格闘アクションのみならず空中でバランスをとるためのトランポリンや高所からの落下、バイクやクルマのハンドリングまで男同様の訓練を積むシーンは、女でも、いや、女だからこそできるスタントがあると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、スター女優の代役ではなくスタントウーマンそのものを主役にして危険なカーチェイスを繰り広げる「デス・プルーフ」が、ワンショットだけ紹介されるにとどまり、言及がなかったのには残念。てあの作品で、猛スピードで走るクルマの屋根に乗ったり、狂ったスタントマンを返り討ちにしたスタントウーマンや、彼女たちを起用したクエンティン・タランティーノの話も聞いてみたかった。

監督  エイプリル・ライト
出演  ミシェル・ロドリゲス/エイミー・ジョンソン/アリマ・ドーシー/シャーリーン・ロイヤー
ナンバー  5
オススメ度  ★★★*


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http://stuntwomen-movie.com/

GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生

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目は霞み、耳も遠くなっている。でも体はまだまだ元気で好奇心も衰えていない。カメラは90歳を過ぎて小学校に入学した老婆の学校生活に密着する。校長も先生もみな孫と同じ年代、同級生はひ孫かさらに若い。そんな環境で彼女は寄宿舎生活をして教室で机を並べる。授業はそれこそ小学1年生の内容、簡単な算数や国語の文法なのだが、やはり学んだ経験のないまま過ごしてきた身には難しい。先生たちも他の児童より気を使い、彼女に教えている。だがケニア人の民族性なのだろうか、いつしか80歳以上年下のクラスメートと勉強している姿が自然に見えてくる。さらに彼女は女の子用の寄宿舎建設のために校長に働きかけていたりもする。効率や物質では測れない豊かな人生、ゆっくり流れる時間こそが彼らにとっての財産だと思わせてくれる。

新学期が始まると、トラックの荷台に乗って寄宿舎に入るゴゴ。小学生たちは二段ベッドだが、ゴゴには個室が与えられている。教室では一番前の席に陣取り、先生に特別目をかけてもらっている。

学校行事で、児童たちがバスに乗って旅行に出る。地平線まで広がる大草原、道中キリンや象、ライオンまですぐ近くで見学する機会を得る。ゴゴにとっては見慣れた風景でも子供たちには初めての体験。野生動物との接近遭遇にはしゃぐ子供たちの中で、ひとり達観したようなゴゴのたたずまいが印象的だった。その後、他校の児童たちと交流したりするが、やはり無邪気な子供のようにはいかないのか少し遠慮がちに見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

完成が遅れていた寄宿舎も無事落成式が行われ、彼女は立役者として校長から感謝されたりする。一方で勉強ははかどらず、試験の出来は芳しくない。学期が終わり村に戻ったゴゴはもう学校をやめると言い出す。しかし、彼女が白内障であると見抜いた校長のおかげで、無事視力を取り戻す。その過程で、教育を受けなかったことで不利益を被ったはずのゴゴの半生について突っ込んでほしかった。知りたいのは、彼女は何者だったのかということなのだから。

監督  パスカル・プリッソン
出演  プリシラ・ステナイ
ナンバー  4
オススメ度  ★★*


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https://www.gogo-movie.jp/

Swallow スワロウ

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話を聞いてくれない夫。見下した態度をとる義父。価値観を押し付けてくる義母。イケメン富豪と結ばれたのに、彼女の胸に湧いてくるのは劣等感ばかり。物語は郊外の豪邸に暮らす専業主婦の孤独を描く。物質的には満たされている。贅沢にも慣れた。だが、夫に養ってもらっているだけの毎日は、求めていた人生とは決定的に違う。そんな時見つけた、己を取り戻すための儀式。最初は苦しかった。痛みや出血も伴った。ところがそれを乗り越えて異物を体内に取り込んでいくうちに、彼女の精神は浄化されていく。異常なのはわかっている。周囲に知られたら止められるに決まっている。それでも夫の目を盗んで異物を呑み込んでいく姿は、狂っているのは彼女ではなく、彼女を取り巻く環境の方ではないかと思わせる説得力があった。

結婚生活に不満を抱くハンターは、ある日家にあったガラス玉を飲み込む。消化されず排泄されたガラス玉に美しさを感じたハンターは、その後もさまざまな小片を口に入れる。

妊娠し幸せの絶頂にあるはずなのに、気分はすぐれない。夫も義父母も祝福してくれるのに、素直には喜べない。ハンターの関心はお腹の子よりも、次は何を飲み込めるか。そして胎児の超音波検査で体内の異物が発見されると、精神医によるカウンセリングを受けさせられる。すべてが手の届かないところで回っている。自分こそが夫たちの住む世界から除外された異物という思いが、彼女の心をさらに乱していく。抑制の効いた寒々とした映像には、上流社会に居場所がないハンターの寂しさが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

家政夫の監視下に置かれたハンターは、もはやかごの鳥。そして明らかにされる出生の秘密。彼女をここまで追い詰めたものはなんなのか。セレブ家庭に入るなどという想定外の幸運は、出身階層が違う彼女には不幸でしかない。家庭を守るハンターは21世紀では古臭く思えるが、米国にもまだこういう女がいるのが珍しかった。きちんと教育を受けるか手に職をつけておくべきだと、ハンターの彷徨は教えてくれる。

監督  カーロ・ミラベラ=デイビス
出演  ヘイリー・ベネット/オースティン・ストウェル/エリザベス・マーベル/デビッド・ラッシュ/デニス・オヘア
ナンバー  3
オススメ度  ★★★*


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http://klockworx-v.com/swallow/

燃えよデブゴン TOKYO MISSION 

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走り跳び街灯を登り屋根を伝い、襲い掛かるチンピラどもをひとりで倒していく。見かけは2倍に膨らむほどでっぷりと太っても、軽やかな身のこなしは健在だ。物語は、香港の熱血刑事が、東京のヤクザ組織を相手に大暴れする姿を描く。「ドラゴンへの道」のテーマをバックに、あらゆる犯罪者を一網打尽にする圧倒的なパフォーマンスは香港映画ならではのサービス精神が満載だ。さらに風船のような体なのに拳や脚、あらゆる攻撃防御のスピードは驚異的。だがどこかコミカルさが漂う。小難しい展開など一切なく、ただただアクションに徹し主人公の身体能力の高さを堪能するだけの作品だが、むしろその割り切りが心地よい。CGによる合成ではない、生身の人間が演じるからこその情熱がスクリーンからほとばしっていた。

左遷されたファーロンは運動不足と過食で肥満体になる。そんなとき、容疑者を警視庁に引き渡す任務に就き来日するが、容疑者に逃げられてしまう。容疑者はヤクザに身柄を狙われていた。

元恋人のホーイも同時期に来日、ヤクザが催すイベントのゲストに招かれる。ファーロンは香港人社会の世話人接触、チンピラの取り立てから彼らを守ったことから、ヤクザとの対立を鮮明にしていく。このあたり、とりあえず話の流れのようなものはあるがミステリーの要素は控えめで、ドニー・イェン扮するファーロンがひたすら猥雑な街や鮮魚市場で大勢を相手に立ち回りを演じる。そのデブな外見と技のスピードとキレ味のギャップを楽しむためのスタントが満載で、ひと時もスクリーンから目が離せない。思考停止になってしまった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クライマックスの東京タワーでの決闘は、縦横斜めに張り巡らされた鉄柱を立体的に使いこなしながらも重力を感じさせない軽やかさを見せるファーロン。さらにヤクザのボスが三叉剣を両手にするとファーロンはヌンチャクで応戦、ブルース・リーを彷彿させるパフォーマンスを見せてくれる。デブならではの不利な点も見せてくれればもっと笑えたかもしれないが。

監督  谷垣健治
出演  ドニー・イェン/ウォン・ジン/ルイス・チョン/テレサ・モウ/ニキ・チョウ/竹中直人/丞威/渡辺哲
ナンバー  2
オススメ度  ★★★


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https://debugon-tokyo.jp/

新感染半島 ファイナル・ステージ

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全土が感染に見舞われた半島国家、逃げ遅れた人々は隠れ住むか砦の中に籠るしかない。残された物資は豊富にあり、補給に頼らずにしばらくは生きていける。だが外部との連絡手段はなく救出は望めない。物語は、ゾンビに取り囲まれた地域に放置された現金輸送車を回収するために送り込まれた男女の奮闘を追う。音さえ立てなければ夜は安全のはずだった。静かに忍び込んで、すぐに撤退する予定だった。しかし、生き残った民兵部隊に邪魔をされるという想定外の事態に陥り、彼らはゾンビ以外も敵に回す。全力疾走で向かってくるゾンビと、重武装した装甲車で追いかけてくるならず者。ただ血肉を求めて突進してくるだけのゾンビよりも狂気に駆られた人間の方が数倍恐ろしい。夢も希望もない世界で生き残るには何が必要なのかこの作品は教えてくれる。

香港で難民生活を送るジョンソクはゾンビ禍難民の3人と共にソウルに潜入する。ほどなく現金輸送車を見つけるが、現地の民兵組織に襲撃されたうえゾンビに囲まれたところを謎の一家に助けられる。

音や光に反応し、全力疾走で迫ってくるゾンビの群れ。数十体、いや数百体が廃墟からわき出し先を争うようにして人間の匂いを追う。身体能力は増し障害物を難なく飛び越え歯をむき出しにして襲い掛かってくる。一方、ファン軍曹が実権を握る民兵組織も、ジョンソク達侵入者を排除しようとする。きっと無能な士官の命令に従わなければならない鬱屈を抱えていたのだろう。思いきり銃をぶっ放しても咎められない自由を満喫しているようで、暴力的な欲望を解放した姿はむしろ人間的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

脱出するためのフェリーが港に来ていると知ったファン軍曹はジョンソクらが運転する輸送車を追う。十数台の車両が銃撃戦と肉弾戦を繰り広げながら全力疾走するカーアクションは、大勢のゾンビも参戦、圧倒的な情報量のもとで息もつかせぬスリルとスピードで見る者を完全に思考停止状態に陥らせる。細密なCGはまるでゲームの中に迷い込んだような錯覚すら覚えた。

監督  ヨン・サンホ
出演  カン・ドンウォン/イ・ジョンヒョン/クォン・ヘヒョ/キム・ミンジェ/ク・ギョファン/キム・ドゥユン/イ・レ/イ・イェオン
ナンバー  1
オススメ度  ★★*


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https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/

ソング・トゥ・ソング 

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男と女、恋と友情、仕事とセックス。音楽にかかわる人々が織りなす人間模様は複雑に絡み合いお互いに影響を与え続ける。それは彼らにとって期待していた運命なのか。それとも偶然の出会いが産んだ帰結なのか。物語は、ミュージシャンの街に集まったもう若くない男女の魂の彷徨を描く。いまだ自分探し中の女、成功してもさらなる成功を欲する男、歌で有名になりたい男、生活のために働く女。彼らの人生は少しずつ交わり、愛と憎悪が生まれていく。ところが、その生々しい感情も、洗練された構図のなかで一番美しい光のをとらえた映像の中では、詩情に昇華されていく。ルーニー・マーラの儚さとライアン・ゴスリングの繊細さ、マイケル・ファスベンダーの傲慢さとナタリー・ポートマンの謙虚さが見事にシンクロしていた。

定職のないフェイは大物プロデューサー・クックと交際していたが、シンガーソングライターのBVとも付き合い始める。クックはダイナーで生活のために働くウエイトレス・ロンダに声をかける。

クックといるときはどこか陰を引きずっていたフェイは、BVとのデートでは輝くような笑顔を見せる。オープンカーでのドライブ、荒野で見る夕日、アパートの高層階からの眺望。カネも影響力もあるクックには “囲われている感” しかなかったのに、ラブソングを歌うBVは自由を感じさせてくれる。恋愛は立場が対等な関係の方が絶対に楽しい、相手に対して打算のないフェイとBVの姿は、失うものが何もない方がより大胆になれると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

セリフよりモノローグ、ストーリーより断片的なエピソード。テレンス・マリックの流麗な映像詩はこの作品でも他の追随を許さない独特のリズムを刻む。21世紀の初頭までのように「寡作の巨匠」と呼ばれていたころは、その手法も非常に新鮮かつ印象的だった。だが、毎年のように新作が見られるようになると珍しさも失せる。確かに構図と画力は心にしみるインパクトを持っている。それでも、なにかひとつでいい、驚きやときめきが欲しかった。

監督  テレンス・マリック
出演  マイケル・ファスベンダー/ライアン・ゴズリング/ルーニー・マーラ/ナタリー・ポートマン/ケイト・ブランシェット/ホリー・ハンター/バル・キルマー
ナンバー  230
オススメ度  ★★*


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https://songtosong.jp/

ジョゼと虎と魚たち

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気が強くひねくれていて人の話を聞かない。言葉遣いは命令口調で見下したような態度をとる。およそ他人とのコミュニケーションを学ばず狭い世界で生きてきた女にとって、それは同情される悔しさから自らを守るために身に着けた鎧。物語は、車いす生活を送る女と、彼女の面倒を見るバイトを始めた男子大学生交流を描く。不自由な体のせいで夢は夢とあきらめていた彼女は、夢を追う彼がうらやましく腹立たしい。健常者の彼は、彼女の気持ちが理解できず、あきらめずにチャレンジしろと励ます。一緒に過ごす時間が増えるとお互いに好感を持つようになり、ふたりの関係は濃密になる。だが、距離が近づくほどに気づく、彼らを隔てる壁の高さ。なにものにも媚びないヒロインの心の裏にある哀しみが切なさを呼ぶ。

坂道を暴走する車いすを止めたのをきっかけに、ジョゼの世話係のバイトを始めた恒夫。ジョゼのわがままに振り回されながらも、精一杯生きようとする彼女に寄り添おうとする。

祖母のおかげでカネも身の回りの心配もなく暮らしてこられたジョゼは、恒夫と外出するまでは世間の人々を虎と呼び怖がっている。健常者のちょっとした言葉や仕種に敏感になり、自分なんか世の中の負担でしかないという負い目を感じ、それを悟られまいと恒夫に当たったりする。子供のころから傷つくことを恐れ、恐れるあまり過剰な予防線を張る。そんなジョゼの気持ちが、いまだ障碍者が生きづらい社会に対し警鐘を鳴らす。健常者が当たり前にできることが彼らにとってどれほど困難なのかが、ジョゼと恒夫の日常を通じてリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、恒夫が交通事故で大けが、予定していた留学が白紙になる。不自由な体になって初めて自分の言動がどれほどジョゼを傷つけていたかを知る恒夫。障碍者にとって、夢は希望ではなく失望しか生まない。そんな現実が痛いほど胸を締め付ける。ただ、大阪弁をしゃべるのはがさつなキャラ、標準語をしゃべるのは知的で繊細なキャラという露骨な色分けは不快だった。

監督  タムラコータロー
出演  中川大志/清原果耶/宮本侑芽/興津和幸
ナンバー  229
オススメ度  ★★*


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https://joseetora.jp/