こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モンスターハンター

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気が付くとそこは一面の砂。砂の海を自由に泳ぎ回る巨大モンスターが突然襲い掛かってくる。モンスターには小銃、機関銃、手榴弾といった近代的な武器がまったく通じない。レンジャー隊員たちは勇敢に立ち向かうが、ひとりまたひとりと餌食になっていく。物語は、作戦行動中に異世界にスリップした女将校の奮闘を描く。モンスターが手を出せない岩場に避難しても人食クモの群れが待ち構えている。次々と部下が絶命していく中、傷だらけになりながらも生き残った彼女は、単独行動するハンターと出会い協力するうちに友情を芽生えさせる。言葉が通じず、最初はいぶかしみ疑い合っていた彼らが、ガチの格闘を通じてお互いに戦士として尊敬の気持ちを抱き始めるのだ。その過程は、共通の敵の存在が仲間意識を育てると教えてくれる。

大剣と弓矢を自在に操るハンターと出会ったアルテミス大尉は、元の次元に戻るために砂漠の先の高台にそびえるタワーを目指す。まずは砂漠に棲むモンスターを倒すために大クモの毒を採取する。

岩場には何隻もの難破船が残骸をさらしている。そこで見つけた武具を身に着けるアルテミス。もともと着ていた迷彩服で機関銃をぶっ放す姿も様になっていたが、古代ローマ時代を思わせる防具や剣を手にすると一層精悍に見える。ミラ・ジョボビッチにとってゲーム実写化における戦士コスチュームははまり役、タフなヒロインの代名詞になりつつある。相手役のトニージャーは格闘技の動きこそシャープだったが、この世界のハンターという設定ゆえの重装備が邪魔をして、超人的な身のこなしは控えめ。彼のマッハなアクションが見たかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

タワーを目前にしたアルテミスとハンターは、次々と現れるモンスターを倒していく。この世界の船長とも知り合い、塔の守護神ともいうべき火を噴く翼竜に立ち向かう。ただその映像は刺激的だがワンパターン、船長の英語が流ちょうすぎたり捕らえられたアルテミスがあっさり脱獄したりという設定にももう少し工夫がほしかった。

監督  ポール・W・S・アンダーソン
出演  ミラ・ジョボビッチ/トニー・ジャー/ロン・パールマン/山崎紘菜
ナンバー  53
オススメ度  ★★*


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https://monsterhunter-movie.jp/

旅立つ息子へ

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タツムリが怖い。「キッド」を繰り返し見る。星型パスタが大好き。金魚に名前を付けてかわいがっている。そして何より、いつも一緒にいてくれるパパとは離れ離れになりたくない。物語は、そんな自閉症スペクトラムの息子を持つ父の過剰なまでの愛を描く。自分ひとりできちんと面倒を見ていると、他人の介在を許さない。息子をコントロールするために時に甘やかし時に厳しくもするが、己の気持ちを押し付けているに過ぎない。それを妻や介護職員、弟にまで指摘されるが耳を貸さず、余計に意固地になっていく。息子にとって父は世界のすべて。ところが父にとっても息子が世界の中心になり、彼らは2人だけで世界を完結させようとする。障害を持つ息子への強い思いを暴走させる父の感情は利己的で共感できない。だからこそそこに人間の真実があるのだ。

裁判所命令でウリを養護施設に入所させることになったアハロン。だが、連れていく途中にウリがパニックになり、耐えられなくなったアハロンはウリと共に別方向に向かうバスに乗る。

知人の家に立ち寄ったり安ホテルに泊まったり弟のヨットを訪ねたりと、アハロンは何とか結論を先延ばしにしてウリとの時間を大切にする。しかし、ウリも肉体的には立派な大人、プールでビキニの娘に発情したり義妹のシャワールームに裸で押し入ったりと、性衝動を抑えられない。父親としてアハロンはウリの行動が理解できるが、それは犯罪行為であることをきちんと教えていない。このあたり、障碍者の性という非常にセンシティブな問題にもスポットを当て、親の苦悩を浮き彫りにしていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

元妻にクレジットカードの利用を止められたアハロンは、次第に金銭的にも追い詰められていく。逃げきれないのはわかっている、それでも何とかなると己を欺き、負けを認めない。最後まで未練を捨てないアハロンに対し、少し成長した姿を見せるウリ。ウリ自身が描いたと思われる自動ドアの開ボタンが、どんな人間関係にも終わるときが必ずくることを象徴していた。

監督  ニル・ベルグマン
出演  シャイ・アビビ/ノアム・インベル/スマダル・ボルフマン/エフラット・ベン・ツア/アミール・フェルドマン
ナンバー  52
オススメ度  ★★★


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https://longride.jp/musukoe/

ノマドランド

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「ホームレスではない、ハウスレス」。彼女は己の境遇をそう説明する。バンを運転しながら仕事を探して放浪する。寝るのも食事も荷台の中。カネはないけれど時間と自由は有り余っている。同じ境遇の者同士協力し合っても深くは干渉しない。物語は、夫の死をきっかけに車上生活者となった高齢者の日常を追う。家や家族は失ったけれど、特に寂しくはない。その日暮らしだけれど身の丈に合っているともいえる。米国西部の荒野を地平線まで貫く一本道をひたすらバンを走らせていると心が浄化されていく。明け方の空、奇岩だらけの乾燥地、緑深い森と小川、満天の星etc. 壮大な自然の中に身を置くと生きている実感がわき、生まれてきた意味が見えてくる。そんな、大都会の大量消費文明に背を向けた生き方は競争社会のむなしさを教えてくれる。

amazon配送センターで年末の仕事を終えたファーンは、車上生活者向けのキャンプに移動、生きるためのノウハウを学ぶ。そこで知り合った人々と友情を結ぶが、次の職を求めて移動する。

キャンプの主催者はヒッピーの流れを汲んでいるのだろう、来る者は拒まず去る者は追わず、だれにも優しくゆる~い人間関係を提唱する。過去を詮索されたくない人々にとっては居心地がいい。バンの修理費用がかさんだりもするが何とかなるぐらいの伝手はある。家を失った貧困層の人々が仕方なく車上生活しているのかと思っていたが、彼らはむしろ好んで放浪している。愛とか貯金とか血縁とか、そういったしがらみがなくなれば人間はいかに楽になるか。ファーンの旅に同行しているうちに、豊かな人生とは何かを考えさせられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヤマもなければオチもない、カメラは淡々とファーンの一年に寄り添うだけ。ノマドライフを称賛もしないし、格差社会を非難するわけでもない。それでも、広大な大地に拠点を置き、働き、食べ、眠るという根源的な行為に身を浸す充足感は十分に伝わってくる。別れ際に「さよならではなく、またどこかで」と言う彼らのカッコよさを見習いたくなった。

監督  クロエ・ジャオ
出演  フランシス・マクドーマンド/デビッド・ストラザーン/リンダ・メイ/スワンキー/ボブ・ウェルズ
ナンバー  51
オススメ度  ★★★★


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https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html

ブータン 山の教室

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目の前の “やるべきこと” をおろそかにしている男は、今の境遇に強烈な違和感を覚えている。こんなところでくすぶっているはずじゃなかった、海外で活躍しているはずだった。そんな思いに苛まれながら彼は子供たちの前に立つ。物語は、都会から遠く離れた山奥の村に教師として派遣された青年が、少しずつ己の居場所を見つけていく姿を描く。不本意なのを隠さない。村人の好意にこたえようとはしない。年長の村長にも不遜な態度を崩さない。夢を追っている自分に酔い、まったく本気になろうとしない主人公は、どこにでもいるタイプ。特に信心深いわけではない。欧米風の消費生活も謳歌している。ネットのおかげで流行にもついていける。主人公のライフスタイルを見ていると、幸福度世界一の国でも若者の気質は似たようなものだと妙に安心した。

道路も電気も通っていない村への辞令が出たウゲンは渋々バスに乗る。村人が最寄りの集落まで出迎えてくれるが、村はさらにそこから徒歩で6日、ウゲンはすっかりやる気をなくす。

首都で暮らし、夜型のチャラい生活が身についているウゲン。オーストラリアで歌手になるつもりでいる。着任早々に村長に辞退を申し出るが、村長たちも引き止めたりはしない。それでも翌日教室に顔を出すと、目を輝かせた児童たちがウゲンを待っている。特に、ペンザムという少女のキラキラと光る瞳と羽根を広げた蝶のような笑顔は、もはや天使の領域。今まで同工異曲の映画は何本も作られてきたが、ヒマラヤ山麓という桁違いの辺境と、ペンザムの存在は、この作品を一段と輝かせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

児童に国語算数英語などを教えるうちにやりがいを感じ出したウゲンは、教材やギターを取り寄せて授業を楽しいモノに変えていく。児童たちも純真でウゲンになついている。一方で、ウゲンは丘の上で歌う娘と心を通わせたりする。村の人々が訛りなくウゲンと会話するのに不自然さを感じたりもするが、自然豊かな天空の秘境で繰り広げられるおとぎ話の前では、どうでもよくなった。

監督  パオ・チョニン・ドルジ
出演  シェラップ・ドルジ/ウゲン・ノルブ・へンドゥップ/ケルドン・ハモ・グルン/ペム・ザム
ナンバー  15
オススメ度  ★★★*


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https://bhutanclassroom.com/

クイーンズ・オブ・フィールド

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体格もパワーもスピードも全く違う男たちを相手に女たちは果敢に挑むが、その差は簡単には埋まらない。その結果大敗、笑いものになる。だが、それでも挑み続ける女たちに周囲の見る目は少しずつ変わっていく。物語は、出場停止になった男子サッカーチームの代わりに、町の女たちが即席チームを結成し試合に挑む姿を描く。経験者はほとんどいない。コーチは頭数をそろえるために運動能力の高そうな女たちに片っ端から声をかける。妻であり母でもある女たちは家事や育児を夫に交代してもらわなければならず、練習に集中できない。なにより腹立たしいのは夫たちの無理解。まだまだ女は結婚したら家庭に入るべきという考え方が強く残るフランスの地方都市、彼女たちが古い価値観と闘いぶち壊していく過程が痛快だ。

乱闘で選手全員が出場停止なったマルコのチームは、シーズン残り3試合で1点を取らなければ降格になる。窮余の策で女子チームを編成して次節に臨むが男子チームとの実力差は明らかだった。

夕方以降グランドに集まり夜遅くまで練習する選手たち。その間、夫たちは仕事で疲れて帰宅した上に家庭の雑事を押し付けられて不満がたまっていく。特に、スポンサーのミシェルは女子チームに強硬に反対、妻が無断で参加したことに腹を立て意固地になる。家庭内冷戦状態になった女たちは集まって夫たちの悪口を言い合う。女だというだけで男の付属物のように扱われていた彼女たちが高級ワインを飲みながら積年の恨みが爆発させるシーンは妙にすがすがしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マルコはコミッショナーに女子チームの参加を訴え続けるが、男女の試合は無効と裁定される。それでもチームは最終試合に臨み抜群の技量を持つサンドラの活躍で勢いづいたチームは大善戦する。しかし、男女平等が叫ばれる中、草スポーツのレベルならまだしも、やっぱり男女をフィジカル面で対等に扱うのは無理がある。そのあたりの掘り下げ方が中途半端、ならばもっとコメディ路線に振ったほうがよかったのではないだろうか。

監督  モハメド・ハムディ
出演  カド・メラッド/アルバン・イバノフ/セリーヌ・サレット/サブリナ・ウアザニ/ロール・カラミー/アンドレ・ウィルム/ギョーム・グイ
ナンバー  49
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://qof-movie.com/

アウトポスト

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新しい任地は険しい岩場に囲まれた谷底。敵からは丸見えで身を隠す場所も少なく、格好の的になる。物語は、アフガン山岳部に設けられた前哨基地に派遣された米兵たちの奮闘を追う。油断していると突然銃撃される。迫撃砲で反撃するとしばらくは攻撃が止まる。地元民に協力を求めても長老たちはしたたか。武装勢力は力を蓄えつつある。補給は夜間ヘリによる空輸だけ。増員は望めない。それでも戦場に送り込まれた兵士たちは日々身を危険にさらし上層部からの過酷な命令をこなしていく。銃弾砲弾降り注ぐ戦闘シーンは、ハンディカメラによる長回しのショットの連続。最前線で命を張る兵士たちの息遣いまでをリアルに再現した映像は、まるで戦場にいるような緊迫感だった。圧倒的な数的不利にもひるまず闘い続ける勇気に感銘を受けた。

50人余りの陸軍兵が補給経路の確保のために設けられたキーティング基地を守っている。普段は散発的な攻撃しか受けないが、タリバン兵は少しずつ攻撃の準備を進めていた。

指揮官の性格によって現場の士気は大きく変わってくる。現地の長老たちと積極的に交流しタリバンの情報を得ようとする者、交戦規程を最優先して臆病者と陰口をたたかれる者。それぞれが経験に基づいて指揮を執るが、イラクでの経験は通用しない。撤退命令が出されても期限は延期されるばかりで、いつ国に戻れるかわからない。枕を高くして眠れない日々が何週間も続く肉体的精神的負担が少しずつ積もっていくが、仲間に弱みを見せまいと気を張っている。そんな中、戦うべき大義が見えない戦争に送り込まれた若者たちの、家族を思う気持ちが切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、視点はあくまで米兵側からで、タリバン兵はシューティングゲームの雑魚キャラのように次々と湧き出てきては撃ち殺されるばかり。米兵たちにはそれぞれ家族との絆や懐かしい思い出があり、ひとりひとりがかけがえのない人間として描かれるのに、タリバン兵は虫けら扱い。米国が正義という思考回路がこの作品にもこびりついていた。

監督  ロッド・ルーリー
出演  スコット・イーストウッド/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/オーランド・ブルーム/ジャック・ケシー/ジョナサン・ヤンガー
ナンバー  48
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://klockworx-v.com/outpost/

まともじゃないのは君も一緒

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“好き” という気持ちを定量的に言わないと理解できない男と、恋人同士が付き合い始める瞬間を知りたい女子高生。周囲とぎこちない人間関係しか結べないふたりは、協力して恋について学んでいく。物語は、予備校講師が恋愛知識豊富な教え子の指南で “フツーの恋愛” を実践していく過程を描く。同僚の女が食事に誘っても定食屋に連れて行ってしまう。何事にも理由を求めしまい話が理屈っぽくなってしまう。別にひとりでも困らないからとその状態を放置してきた。だが、それでは一生結婚できないと指摘された彼は一念発起、彼女が立てた作戦で高嶺の花に接近する。テンポがいいのにかみ合わないセリフ、常識とはかなりズレた価値観、一生懸命になるほどすれ違っていく思い。コメディの定石を抑えつつも、不思議な感性をまとう主人公ふたりのキャラが新鮮だ。

数学講師・大野からどうすれば結婚できるか相談された香住は、大野にきりっとしたスーツを買わせ、美奈子に接近させる。美奈子は尊敬するベンチャー企業社長・宮本の婚約者だった。

大野には美奈子を楽しませるような気の利いた会話ができないはずなのに、飾らない世間知らずなところが逆に将来に不安を抱えていた美奈子の心をとらえる。酒も入り意気投合した大野と美奈子、だが大野の失敗を期待していた香住は面白くない。このあたり、恋愛マニュアル的な情報には長けているけれど実際の経験がない香住の微妙に揺れ動く感情がリアルに再現されていた。その後、偶然を装って美奈子に再開する作戦を大野は実行に移す。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大野を「結婚できる男」に変えるという目的で行動を共にしていた香住だったが、宮本へのあこがれが色あせてくるにつれ自分の本当の気持ちに気づいていく。一方、鈍感な大野も、美奈子と宮本を別れさせることを数学の解を求めるかの如くとらえていたが、他人の気持ちを忖度する程度には進化する。世の中のフツーに嫌気がさしたふたりが森の中で語り合う姿は、変人でも無理に自分を変える必要はないと教えてくれる。

監督  前田弘二
出演  成田凌/清原果耶/山谷花純/倉悠貴/大谷麻衣/小泉孝太郎/ 泉里香
ナンバー  47
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://matokimi.jp/