こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クルエラ

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ずっと周囲となじめなかった。友人はひとり、大人には理解してもらえなかった。それでも母だけは愛してくれた。物語は、孤児となった少女が泥棒家業をしながら成長し、トップデザイナーになる夢を追う姿を描く。さいわい同じ境遇の子供たちと知り合えた。有名なデザイナーにも認められた。だが、目標に一歩近づけたかと思えば、そこは過酷な競争の世界。歯を食いしばって頑張り続けるヒロインはサクセスストーリーを見ているようだ。一方で社会の底辺にいるような人々ほど思いやりを持ち、勝ち組ほど冷酷になっていく。その過程は、1970年代の設定なのに現代をトレースしている。成功するにつれ、助けてくれた仲間たちを馬鹿な子分扱いする彼女の変化が、友情だけでは取り残される厳しい現実を突きつける。

母が殺され追われる身となったエステラはロンドンに逃げ、ジャスパー、ホーレスと知り合いになる。10年後エステラは百貨店に就職、ショーウインドウのディスプレイがバロネスの目に留まる。

ファッション界の女王・バロネスは業界すべてを仕切るほどの影響力を持っている。ライバルは容赦なくつぶし、使えない部下は即クビになる。早朝から深夜まで働くことを従業員に強い、自らも9分間の昼寝以外はほとんど仕事に夢中になっている。エステラは彼女の工房で見習いから始め、瞬く間に才能を開花させていく。デザインのセンスだけでなく、秘書としても常にバロネスの意図を読み先回りする。そのあたり、欧米流のシビアなビジネスで生き残るためのノウハウが凝縮され、実力本位の資本主義の神髄を垣間見せてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてバロネスが母の仇と知ったエステラは復讐を誓い、白黒ヘアの怪人・クルエラとなって彼女のコレクションの邪魔をし始める。特殊なパワーを持っているわけではない。ジャスパーとホーレスの力を借りてファッションテロを起こすだけ。持たざる者が知恵を絞って持てる者に抵抗する。そんな、女版「ジョーカー」という狙いはわかるのだが、社会への鬱屈した不満は中途半端だった。

監督  クレイグ・ギレスピー
出演  エマ・ストーン/エマ・トンプソン/ジョエル・フライ/ポール・ウォルター・ハウザー/エミリー・ビーチャム/マーク・ストロング
ナンバー  95
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://www.disney.co.jp/movie/cruella.html

SNS 少女たちの10日間

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12歳とプロフィル欄に書き込むだけで、蜜に群がる蟻のように男たちがメッセージを送りつける。チャットで少し打ち解けた後、ビデオ通話に切り替えると画面に現れるのはほとんどが中年以上の男たち。映画は、12歳の少女がSNSの世界にひとりでさまよいこんだとき何が起きるかを検証する。12歳に見える成人の女優をオーディションで選び、スタジオに大掛かりな女の子の部屋のセットを組む。コンタクトしてきた相手には12歳であることを強調し反応をうかがう。男たちの目的は性的な行為、すぐに会うわけではないが言葉巧みに主導権を握ろうとする。そして彼女たちの裸の写真を送らせる。一方で自分の勃起した性器やオナニー動画を送りつけ少女たちに見せる。彼らのゆがんだ性衝動はリアルな人間関係に乏しくなった現代人の孤独を象徴していた。

SNSが気になって四六時中スマホを手放さないチェコの子供たち。彼らがどれほど危険な状態にさらされているかを実証するため、3人の女優をおとりにした10日間の実験が始まる。

男たちは極めて積極的だ。少女たちにわいせつ写真・動画、卑猥な言葉をかけるのが、法に触れるなどとは一切思っていないのだろう。なんとか彼女たちの興味を引き、なだめすかし時には脅して己の欲望を満たそうとする。あまりにもゲスな男たちの要求は思わず目をそらしたくなる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて実験は実際に会うという設定にエスカレート、何度も連絡を取った相手をカフェに呼び出してその様子をカメラに収める。その中に青少年センターの職員がいることに気づいたディレクターは、企画の枠を越えて彼に直撃する。確かに、小児性愛者がリアル世界で子供相手の仕事をしているのはまずい。だからといって、一映像作家が己の正義を振りかざして、この男を断罪する。さらに記録した映像を警察に提供したともいう。第二次大戦後長期間にわたって自由を奪われたチェコ人には、公権力に対する服従が染みついているのだろうか。作家側の立ち位置がゲス男たち以上に不愉快だった。

監督  バーラ・ハルポバー/ビート・クルサーク
出演  テレザ・チェジュカー/アネジュカ・ピタルトバー/サビナ・ドロウハー
ナンバー  90
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://www.hark3.com/sns-10days/

茜色に焼かれる

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謝罪しない男からのカネは絶対に受け取らない。一方で死んだ夫の父や愛人の子の面倒は見る。母子ふたりが暮らしていくだけでも大変なのに、歯を食いしばって耐えている。物語は、そんな彼女の目を通して、社会のセーフティネットからこぼれ落ちた人々の日常を描く。狭い市営団地に住んでいる。若い新人のために職場をクビになる。息子は学校でいじめにあう。シングルマザーはすぐにヤレると軽く見られ、軽薄な男たちが口説いてくる。それでも弱音は吐かず、かたくななまでに己の信念を貫くヒロイン。性風俗の客にどれだけ馬鹿にされ罵られようとも笑顔を崩さない。心は傷ついているのだろう。怒りを飲み込んでいるのだろう。なのに、自分を守るためにスマイルを顔に張り付かせている。“悲しくて笑う” の意味がよく理解できた。

老人ドライバー暴走事故で夫を亡くした良子は、その老人の葬儀に参列しようとして追い返される。賠償金を拒否した彼女はホームセンターと風俗で中学生の息子・純平を養っている。

意地を張っているのは、加害者が人の命を奪っても悪いと思わず “上級国民” として天寿をまっとうしたことを許してしまう世間に対してなのだろう。もちろん同情してくれる人もいる。風俗店の若い同僚・ケイもまた、過去と現在の二重苦にさいなまれながら、生きるために性的サービスを提供している。収入はわずか、だが支出は待ってくれない。愛した夫の生き方を尊重し、純平を育てるためにひたすら理不尽を我慢する良子の姿は、切なさ以上に気高い美しさを感じた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

中学時代の同級生と偶然再会した良子は、真剣に付き合ってもいいと思い始める。純平は、デートの約束をしてくれたケイを初恋の相手に選ぶ。少しだけ持てた夢と希望、ところが現実は彼らのような貧困層にとことん厳しい。気持ちを折らず戦い続ける彼らの背中をそっと抱きしめてやりたくなった。ただ、重いエピソードの連続は見ていて気が滅入る。もう少しテンポを速め100分くらいにまとめていたらもっと共感できたのだが。。。

監督  石井裕也
出演  尾野真千子/和田庵/片山友希/オダギリジョー/永瀬正敏/大塚ヒロタ/芹澤興人/前田亜季/鶴見辰吾/嶋田久作
ナンバー  94
オススメ度  ★★*


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https://akaneiro-movie.com/

地獄の花園

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最初にケンカを売ってきた奴を瞬殺し、仕返しにきた奴らもあっさりぶちのめす。さらに強い奴が現れるが、そいつも倒すと、あとは組織内を統一するだけ。そんな、少年漫画雑誌における高校生ヤンキーの成長と友情を扱った世界観を、そのまま大手企業のOL界に持ち込んだアイデアが圧倒的にユニークだ。物語は、中途採用として入社してきたOLが、その会社の極道OLたちのトップに立ち様々なトラブルを解決していく過程を描く。いかにもスケバン風の女たちが暴走族風の衣装に身を包み、オフィスを闊歩する。一般社員とは明確に線引きされていて、素人には絶対に手を出さない。そして格闘シーンは香港やハリウッドの名作をパロディにした派手な作り。それらおなじみの設定が非常に細部まで作りこまれ楽しめる。ばかばかしさもここまで突き抜けると清々しい。

ヤンキー女子社員に絡まれている男子社員を助けた蘭は、出社早々絡まれるがあっさり撃退。その後次々と挑戦を退け、瞬く間に社内で抗争を繰り返してきた3大OL派閥をひとつにまとめる。

相手の攻撃を読み、余裕でかわす。長い手足から繰り出されるパンチとキックは的確に急所にヒットする。かわいい顔して圧倒的な強さを誇る蘭は、堅気のOLである直子と仲良くなる。ダイエットやスイーツ、コスメやエクササイズ、そしてオトコといった普通のOLの会話を楽しむ蘭と直子。その間も、カリスマ伝説が広まった蘭の元に、地元他社のヤンキーOLたちが抗争を仕掛けてくる。ライバルのインフレーション、その展開は20世紀のヤンキー漫画そのもので大いに腹を抱えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、直子が対立会社に拉致されたことから急展開。直子の知られざる素顔が明かされたり地上最強OLが殴り込んできたりと、ますます映像はパワーアップしていく。“ヤンキー” も “OL” もすっかり姿を消して過去の遺物になってしまったが、この作品には彼らのスピリットがまだまだ健在、こんな再生方法があるとは目から鱗が落ちた。黒衣装のOL4人組も女優に演じてほしかったが。

監督  関和亮
出演  永野芽郁/広瀬アリス/菜々緒/川栄李奈/大島美幸/勝村政信/松尾諭/丸山智己/遠藤憲一/小池栄子/ファーストサマーウイカ/室井滋
ナンバー  93
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/jigokumovie.jp/

野良人間 獣に育てられた子どもたち

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森の奥の一軒家で起きた火事。焼け跡から見つかったのは大人1人と子供3人の焼死体だった。物語は、30年前に起きたこの事件の真相を探るために、ジャーナリストが当時の映像を子細に検討する過程を描く。町の人々はもうほとんど覚えていない。年老いた神父も口は重い。だが、ビデオを何度も見直していくうちに、焼失した家で恐るべき実験がなされていたことが明らかになっていく。だれが何の目的で子供たちを数年にわたり監禁していたのか。文明と切り離され適切なしつけも教育も受けてこなった子供たちに、人間としての意識や自覚を持たせるのは可能か。粗い画質のベータビデオ映像が奇妙なリアリティを演出する。

教会との対立で孤立した修道士・ファンは、町はずれの森で隠棲している。ある日森の中で暮らす10歳くらいの野生児を発見、自宅に保護して少しずつ様子を見る。

親もおらずどうやって生きてきたのだろう。髪や爪は伸び放題、肌は垢と泥にまみれている。ファンが食べ物と水を与え続けると警戒心を解き、2本足で歩くことから教え始める。だが、言葉の概念はなく、のどをふるわせての発声を身につけさせねばならない。さらに洞窟で鎖につながれたより幼い2人の男女児も見つけ自宅連れ帰ったファン。3人をきちんと文明化させるのが自らに課された使命と信じ始める。特に超常現象や恐怖体験があるわけではない。ただただ、大人からのきちんとしたケアを受けずに育った子供たちが人間としての生きるすべを失っているのが恐ろしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ファンがビデオカメラで彼らの行動を記録する。この映画のファンが登場するビデオテープの部分はそういう “お約束” で構成されている。ところがお構いなしに時折映像は暴走する。特に、食事の席に着いた少年が料理の入った皿を床に落として夜の戸外に逃げるシーンは、明らかに照明が使われている。ファンは片手にカメラ、片手の照明を持って少年を追いかけたのか? あらゆる意味で設定も作りこみも甘く、結局不快感しか残らない作品だった。

監督  アンドレス・カイザー
出演  エクトル・イリャネス/ファリド・エスカランテ/カリ・ロム/エリック・ガリシア
ナンバー  92
オススメ度  ★*


↓公式サイト↓
https://nora-ningen.com/

ブラックバード 家族が家族であるうちに

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もう覚悟はできている。だが、その時を迎える前にもう一度愛する者たちと過ごしたい。物語は、死期を迎えた女が家族とともに過ごした最期の3日間を描く。皆が納得して送り出すはずだった。楽しい思い出を残すはずだった。お互いに悲しみを見せないように幸せ芝居を続けている。だが虚構は長くはもたない。感情をコントロールできない次女は、彼らが都合よくまとめた偽善にいち早く気づき、空気を壊していく。何度も何度も話し合ったのだろう。反対意見をひとつずつ説得していったのだろう。全員の同意を得るために費やした労力と時間をいまさら無駄にできない。その流れに、本当にこれが正しいのかと次女は疑問を抱く。人間はいかに死ぬか、その選択肢があるうちに己の意志で決めておく。それがどれほど大変かとこの作品は訴える。

海辺の豪邸で暮らすリリーとポールのもとに、長女・ジェニファー一家、次女・アナと恋人、親友のリズが集う。リリーは進行性の難病で、体が動くうちに自らの意志を実行しようとしている。

結論は出ているとはいえ、やっぱりリリーとの別れはできるだけ先に延ばしたい。心のどこかで別の道があるのではという思いがくすぶっている。朝食で交わす何気ない会話、散歩の途中の思い出話、ディナーの後のゲーム大会。それら日常のありふれた風景がかけがえのない出来事に思えてくる。「死ぬ日を決めたら死が怖くなくなった」というリリーの言葉は、延命措置で無理やり生かされるよりも人間としての尊厳を持って死にたいという、彼女の価値観を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、ここにきて家族の隠し事が次々と明るみになる。行方不明になっていたアナは療養施設にいた。大切な人が長年不倫をしていた。記憶の奥まで探ると、今の状況につながる断片がいくつもある。家族といえども所詮は独立した個人の集まり、秘密も嘘もそれぞれが持っている。関わりたくなくても関わらざるを得ない、そういった面倒事も含めて結束する。そんな家族のすばらしさを彼らは教えてくれる。

監督  ロジャー・ミッシェル
出演  スーザン・サランドン/ケイト・ウィンスレット/ミア・ワシコウスカ/リンゼイ・ダンカン/サム・ニール/レイン・ウィルソン/ベックス・テイラー=クラウス/アンソン・ブーン
ナンバー  91
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://blackbird.ayapro.ne.jp/

戦火のランナー

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両親と別れて逃げるしかなかった。生き残るには走り続けるしかなかった。映画は、内戦のスーダンから出国し五輪選手として活躍した男の波乱万丈の半生を追う。のどかな村から強制的に追い出された。糧を得るためには何でもやった。身柄を拘束され奴隷のような扱いも受けたこともあった。それでもあきらめず、命の危険を顧みないで勇気を振り絞る。そして手に入れた自由。もう誰にも束縛されることはない。自分の意志で走ることを選んだ彼はみるみる頭角を現していく。引き締まった長身に長い手足、受け継がれた遺伝的形質は米国流の合理手的な指導で長距離走者として開花していく。「戦争のルール」を無視した内戦という殺戮の荒野で想像を絶する苦難をなめてきた主人公が、平和の祭典で見せる勇姿は美しい。

スーダン南部の村で生まれたグオルは内戦で故郷を追われ難民キャンプに避難、米国に難民として受け入れられる。その後ニューハンプシャーの高校に進学、陸上部コーチに声を掛けられる。

大学進学後も実績を残したグオルは初マラソンで五輪参加標準記録を破るが、スーダン代表としての参加は断る。だが、オリンピック委員会がない当時の南スーダンからは出場できない。それが世界中のメディアで取り上げられると、IOCは特例で彼のロンドン五輪エントリーを認める。国の代表ではない、独立参加選手。支援者と2人だけで選手村に入る彼の姿はさみしげではあるが誇らしげでもある。結果は47位と振るわなかったが、新生南スーダンの象徴として完走した彼には金メダル以上の価値があったに違いない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一度は帰国して両親と再会、さらに南スーダン陸上競技連盟を作るなど人生の絶頂期を迎える。ところが調子を崩して勝てなくなったり、南スーダンで内戦が勃発したりと難題が山積する。マラソン選手としては二流、かといって誇れるスキルも人脈もない。かつてのヒーローにも生活苦はのしかかり、ウーバー運転手として糊口をしのぐグオル。自由も人権もタダではない、そんな現実が痛ましかった。

監督  ビル・ギャラガ
出演  グオル・マリアル/ラスティ・コフリン/コーリー・イーメルス/ブラッド・プア
ナンバー  65
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://unitedpeople.jp/runner/about