妻のいる男を愛してしまった。夫がいる女も愛してしまった。男は妻と別れたと言って求婚してくる。ところが、表現者同士共感しあえた女の柔らかい肌を体験してしまった後では、心は動かない。物語は、絵画・イラストから国際的アニメの原作者となったヒロインの愛と苦悩を追う。彼女が作り上げるのはやさしさに満ちた世界。だが、高名な彫刻家である父は芸術に対して厳しかった。一人暮らしを始めてやっと自由の意味を知った。そして様々な人々と交流するうちに、人間の心の奥では怒りや悲しみ、嫉妬や恐怖が渦巻いていることを学んでいく。当然それらは彼女の中にも芽生え、愛に満ちた人生を謳歌するにはそうした障害を乗り越えなければならない。「ムーミン」に描かれたファンタジックなメタファーは、理想の相手に性別は関係ないと訴える。
1944年ヘルシンキ、戦争の傷跡が残ったままのアパートを借りアトリエ兼住居にリフォームしたトーベ。パーティで知り合った議員のアトスをサウナに誘い、強引に関係を迫る。
その後トーベは、市長の娘で演出家のヴィヴィアンとも恋に落ちる。アトスは理解を示すが内心穏やかではない。いくら性に開放的な北欧とはいえまだ中欧やアジア太平洋地域では戦争が終わっていない時代、配偶者がいる男女と気軽にセックスを楽しむトーベの素行はかなり問題になっていたはず。そんなトーベに対し、彼女の父は直接クレームを口にせずあからさまに卑下した態度で不満を露わにする。トーベが自分を越える芸術的才能を持っていると期待しているのに、30歳を過ぎても目が出ない。伸ばそうとしないもどかしさもある。そんな父娘の葛藤がリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ヴィヴィカからパリに誘われるが、一歩踏み出す勇気がないトーベ。しばらくしてヴィヴィカは踊り子を連れて帰ってくる。トーベはそれを裏切りと解釈するが、準備していたパーティに2人を招く。その場で見せるトーベの複雑な表情は、感情こそが芸術の魂に血肉を与える最も重要な要素だと教えてくれる。
監督 ザイダ・バリルート
出演 アルマ・ポウスティ/クリスタ・コソネン/シャンティ・ルネイ/ヨアンナ・ハールッティ/カイサ・エルンスト/ロベルト・エンケル
ナンバー 178
オススメ度 ★★★