交通事故を起こした息子に心を消耗させる夫婦、多忙な夫を家で待ち続ける新米ママ、ひとり娘にいたずらされたと思い込む男とたしなめる妻、そして疑いをかけられた老夫婦と彼らの孫娘。同じアパートに住んでいるが、それぞれに葛藤を抱えて暮らしている。物語は、4組の家族に起きた悲劇を描く。平和だった日常がふとした弾みで歯車が狂いだす。突然出現した受け入れがたい出来事の前に、男たちはうろたえ、怒り、絶望する。女たちは耐え、頭を高速で回転させ、前に進もうとする。もう過去には戻れない。だが前に進むには踏ん切りをつけなければならない。父、母、夫、妻、息子、娘。立場は違い濃淡もあるけれど、みな一様に苦悩する。現実は思うように運ばないことばかりだけれど、困難は時に人間を成熟させると訴える。
夫が出張中のためひとりで産科病院に向かったモニカの前で、飲酒運転のアンドレアが歩行者をはねて死なせる。アンドレアは裁判官の父に子供のころから反感を抱いていた。
向かいの部屋に住む老人に娘を預けて出かけたルーチョは、老人と娘が夜の公園で保護されたことに疑念を抱き、老人に暴力をふるう。ところが、事情を知らない老人の孫・シャルロットがルーチョを誘惑する。必死でよそよそしい態度を取ろうとするルーチョの理性が一転して崩壊するシーンには男の悲しい性が凝縮されていた。ルーチョは老人の妻や娘から仕返しとばかりに訴えられるが、裁判所が常識的な判断を下したことは救いだった。近所だろうが血縁者であろうが、一度感情をこじらせると双方が意地になり憎しみ合う。そんな人間の愚かさと哀しさがリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
時は流れ、夫婦も親子も以前とは同じではいられない。不幸な出来事が重なったときもあった。憎しみ恨んだときもあった。それでも、年齢を重ねることで過去の解釈が変わってくる。あの日、なぜあんなことをしたのか? それともしなかったのか? ふとした瞬間に明かされる語られなかった事実が、寛容さと賢明さを身に着けるには人生は短すぎると教えてくれる。
監督 ナンニ・モレッティ
出演 マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/ アルバ・ロルバケル/アドリアーノ・ジャンニーニ/エレナ・リエッティ/アレッサンドロ・スペルドゥーティ/ステファノ・ディオニジ/デニーズ・タントゥッキ
ナンバー 175
オススメ度 ★★★★