こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

かぐや姫の物語

otello2013-11-26

かぐや姫の物語

監督 高畑勲
出演 朝倉あき/高良健吾/地井武男/宮本信子/高畑淳子
ナンバー 283
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

山奥でつつましく暮らしていた翁が、小さな姫を拾ったことから人生を狂わせていく過程は、欲に目がくらんだ男の象徴。“姫のため”と言いながら、彼女の心中は全く忖度せず己の出世ばかりを気にかける。摂関政治華やかしころ、娘の嫁入り先如何で父親の地位も上がる、その風潮に敢然と反旗を翻したヒロインはまさに時代の反逆者。一方で翁の愛もひしひしと感じてはいる。そんな彼女が抑えていた感情を解放し町から山野を疾走する墨で殴り描きしたような力強いシーンは、怒りにも似た自由への渇望が溢れ出していた。

竹取の翁は竹の中に女の子を見つけ媼と共に育てる決意をする。山里の子供たちと遊ぶうちに急成長した娘を見た翁は、竹林で得た黄金で都に屋敷を立て、高貴な姫に育てるべく作法や教養を身につけさせていく。

その後の展開も大筋は原作と同じで、特に姫の人物像に現代的な解釈を加えているわけではない。前半は感性豊かで繊細なお転婆娘だったのが、都で“大人”になってからは言動に様々な制限を加えられる。そして結婚相手を自分の意志で決められない悲劇。複数の男からプロポーズされ、選択権は委ねられるが、好きという気持ちは伏せたまま。幼馴染の捨丸への切ない思いだけが彼女の胸の中で膨らみ続け、空想の中でしか思い通りに生きられない女性の願望が切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

かぐや姫の故郷・月は死の世界。あの世からこの世に送られる、それは憂いなく過ごせた浄土からの贖罪の旅だ。彼女が月でどんな罪を犯したのかは語られない、だが地上において翁を含む何人もの男の運命を変えてしまった。最後に記憶を消されるが、これで彼女は許されたのだろうか。月への帰路、振り向いた彼女の目に、当時は誰も知りえなかったはずの青く丸い星・地球が映る。悲しみと苦悩に満ちている、それでもやはり現世こそが美しいと映画は訴えているのだ。ただ、誰もが知っている物語を「なぜ」「今」映像化したのか、もう少し作品としての明確な主張が欲しかった。。。

オススメ度 ★★*

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