こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

もらとりあむタマ子

otello2013-11-27

もらとりあむタマ子

監督 山下敦弘
出演 前田敦子/康すおん/伊東清矢/鈴木慶一/中村久美
ナンバー 284
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

料理も洗濯も掃除もすべて父がやってくれる。食べて寝てテレビ見てゲームしてマンガ読むだけで日が暮れるグータラな娘。今のままではいけないのはわかっている、何とかしなければならないとは思っている。でも、一歩を踏み出すきっかけがないまま1日が過ぎる。映画は大学を卒業したのに就職せず実家に戻ってきた娘と、ひとりで店と家事を切り盛りする父の、弛緩したゴムひものような日常を描く。きっと彼女も真剣に就活に励んでいたのだろう、だが刀折れ矢尽き帰郷した。自信を失った娘にどう接していいか戸惑いつつ普通を装う努力をする父。微妙なバランスの中で、深いところではやっぱり気を使いあっている。そんなぎこちない愛情が微笑ましい。

運動具店を営む父と2人暮らしのタマ子。今日も無気力に家で過ごし、TVニュースに「ダメだな、日本は」と呟く。いらだちを隠せない父はタマ子に「ダメなのはお前だ」と怒鳴りつける。

ぬくぬくとした心地よい日々が永遠に続いてくれればと心ならずも願うタマ子。大みそかにどこにも行かず父と聞く除夜の鐘が、ある意味完結した2人の世界を象徴していた。そして父もタマ子を立ち直らせたいと思いながらも、娘と水入らずの生活にいつしか馴染んでいる。厳しく叱れない父と中途半端な反抗しかできない娘、お互いの性格を知り尽くしているからこそなれ合ってしまう、ある種理想の父娘関係に思えてくる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが父に見合い話が持ち上がると、タマ子は静観していられない。自分以外の女に父の興味がいく、母が出て行った状態では自然なことなのに、素直に喜べないタマ子。それでも相手の女性が思っていたよりきちんとした人と知ると、愚痴を垂れつつも父の長所を彼女に教えてやる。関心のないふりをしていても、父を観察し感謝もしている。夢も野望も控えめだけど、身近な人とのかかわりは大切にする“さとり世代”の実態がリアルに再現されていた。

オススメ度 ★★★*

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