こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

2046

otello2004-10-25

2046

ポイント ★★
DATE 04/9/29
THEATER 東京国際フォーラム
監督 ウォン・カーウァイ
ナンバー 114
出演 トニー・レオン/コン・リー/フェイ・ウォン/チャン・ツィイー/木村拓哉
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

男、女、くゆらされたタバコの煙、肌にまとわりつくような湿度の高い映像。同じくトニー・レオンが主演した「花様年華」で描かれた'60年代の雰囲気をそのまま受け継いでいるのだが、堕落してしまった主人公は愛欲に溺れ享楽的な生活を送っている。そこには禁欲的なまでにもどかしかった「寸止めの美学」のようなものはなく、ただただ酒と女に浸っているだけ。一応、私小説のような近未来小説を書いているのだが、その未来世界がこの主人公の現実の生活と有機的にリンクしておらず、美しいが退屈な映像の羅列に終わっている。

しがないライター・チャウは雑文を書いてのその日暮らし。付き合う女を次々に変えるが、誰も本気で愛することができない。一方で自己投影した「2046」という小説を書き始め、その小説の中では真実の愛に目覚める。しかし、愛した相手はアンドロイドだった。

確かにクリストファー・ドイルの描く感情の奥に届くようなつやと深みのある映像は、スクリーンに吸い込まれるような魔力を持つ。だが、そこで繰り広げられる恋愛遊戯は幼稚で、とても大人の愛とは思えない。セックスを繰り返し、パーティを楽しむだけ。喪失感は感じられずしたがって深い悲しみも描かれていない。主人公が書く小説を映像にした劇中劇もスタイリッシュだが抽象的で何のメタファーにもなっていない。アンドロイドを愛し2046から帰ってきたただひとりの男など、どうとでも解釈できるようなファクターをちりばめることで観客に肩透かしを食わせるだけだ。

ストーリー性を廃しエピソードを並列にし、後は観客の想像力に任せる。それでも作家として何らかの主張がなければ、結局なにが描きたかったのかわからないままに終わってしまう。環境ビデオとしてレストランバーのディスプレイにかけるのには最高の映画だが、これを物語性をもったアートとして鑑賞するには強烈な睡魔と闘う覚悟が必要だろう。隣に座っていた女はいびきをかいて寝ていた。


他の新作を見る