こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

血と骨

otello2004-11-10

血と骨


ポイント ★★
DATE 04/11/6
THEATER ワーナーマイカル新百合ヶ丘
監督 崔洋一
ナンバー 131
出演 ビートたけし/鈴木京香/新井浩文/田畑智子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


触れるだけで切れそうなナイフ。そんな殺気を持った男から発せられるすさまじい暴力はよどんだ澱となり、心の中に不快感として蓄積される。殴る、蹴る、犯す、そして破壊する。その力は圧倒的で何者も抗うことはできない。しかし、この主人公の直線的な衝動は、あろうことか作品そのものを破壊してしまった。


済州島から大阪に出てきた金俊平は凶暴な性格から極道からも恐れられる。目をつけた女は強引に我が物にし、気に食わない相手は徹底的に叩きのめす。腕力こそが生きる尺度。一方で蒲鉾工場や金貸しで財を築く才覚もある。しかしその稼いだカネを家族のために使うことはない。自分とカネしか愛せなかった男はやがて体力の衰えとともに気力もしぼんでいく。


主人公が大男でない以外は原作の雰囲気そのままに映画化している。その原作自体、ただ凶暴な男が自分のエゴ剥き出しに暴れまわっているだけで、何ら共感を呼ぶ場面がない。いくら腕力があって悪知恵が働くといっても、他人のことをまったく考えないこの男に人を動かす魅力があるのだろうか。いくら腕っ節が強くともこれだけ攻撃的な性格ならば刃向かうものもたくさんいるはず。少なくとも彼に忠誠を誓うものが何人もいなければ、身を守れまい。もちろん敵も1人では歯が立たないだろうが、拳銃を使ったり数人で協力すればこの男ひとりぐらい抹殺することは簡単なはず。なのに、周囲の人間はただただ彼のことを「怪物」と恐れているだけだ。


映画化するにあたって、主人公が抱える心の闇とか人を愛した記憶なりを挿入すればそれなりに彼の暴力にも説得力が出たはずだ。しかし、そうした説明的な映像を一切排除して、主人公は暴虐の限りを尽くす。そして主人公が死んで映画が終わった瞬間ほっとする。原作者のエゴ、主人公のエゴ、そして監督のエゴが強烈にぶつかり合って、まったく観客を無視した映画作りはある意味爽快だった。


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