こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

変身

otello2004-11-30

変身

ポイント ★★
DATE 04/11/16
THEATER ユーロスペース
監督 ワレーリイ・フォーキン
ナンバー 136
出演 エヴゲーニイ・ミローノフ/イーゴリ・クワシャ/タチヤナ・ラヴロワ/ナターリヤ・シヴェツ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ある朝目覚めると大きな虫に変身していたはずだったのが、姿かたちは人間のままの俳優に虫を演じさせたのがユニークだ。主人公・グレーゴルを演じた俳優は、手足の動きから残飯をあさる姿まで虫の動きを模写する。そうすることでグレーゴルの気持ちはよく表現できているのだが、逆に彼の扱いに戸惑う家族の姿があまりにも冷たく思える。相手は虫になっても姿はグレーゴルのまま。かつて愛し合っていた家族があそこまでグレーゴルを冷たく扱うのはいかがなものか。父親などリンゴをぶつけ殺そうとする。もちろん家族の目にはグレーゴルは虫としか映っていうないはずだが、観客には人間の姿をしたままなのだ。


家族のために働いてきたグレーゴルは奇妙な夢をみた翌朝、巨大な虫に変身していた。狭い部屋に閉じ込められ残飯しか与えられない。やがて家族はそれぞれ自分たちで生活のためのカネを稼ぎ始めると、いよいよグレーゴルが邪魔になり、ついには殺してしまう。


特殊メークではなく俳優の演技で虫になったことを表現しようとしたことは評価できる。しかし、やはり何らかの外見的な変身がなければ、なぜ家族がここまで彼を嫌うのかが理解できない。たとえば、家族の視点から描く時は虫にして、グレーゴルの視点で描く時は人間のままにするとか。もしくは、グレーゴルの視点に固定することで、彼の内面や家族との美しい思い出を描いたりすれば、家族に捨てられた悲しみも倍加するだろう。元々不条理な原作を映像化するのだから、そのあたりはわかりやすく整理してもよかったのではないか


元々難解な不条理小説を映像化するのだから、もう少しわかりやすい解釈をしてもよかったはずだ。この原作にエンタテインメント性を持たせれば“21世紀の「変身」”として話題になったはず。この作風では一般の観客には受け入れられることはないだろう。


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