こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Mr.インクレディブル 

otello2004-12-08

Mr.インクレディブル THE INCREDIBLES

ポイント ★★★★
DATE 04/12/4
THEATER 109シネマズ木場
監督 ブラッド・バード
ナンバー 143
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


共産圏が崩壊し唯一のスーパーパワーとなった米国は、新たにビン・ラディンフセインという敵役を見つけて自らのパワーの正当性を主張する。スーパーパワーを持ち続けるには敵の存在という理由が必要なのだ。わかりやすい悪、倒さなければならない敵。そして有り余るパワーを発散させるための反対勢力。これこそが今の米国が求めているものだ。この作品の主人公・インクレディブルにはそんな米国ネオコンの思惑を感じさせる。そして敵役・シンドロームがかつてインクレディブルと喧嘩別れしていることも、米国とテロリストたちの状況と似ている。


かつて犯罪や事故から市民を守り愛されていたスーパーヒーローたちは治安回復とともに必要とされなくなり、今では市井の人としてひっそりと暮らしている。そんなひとり、インクレディブルも同じくスーパーパワーを持つイラスティガールと結婚し3人の子供をもうけている。ある日、インクレディブルは悪の組織の罠にはまり捕らえられる。残った家族は一丸となって父親の救出に向かう。


映画の導入部、フツーの人として暮らすインクレディブルが切ない。かつてあれだけ人々から愛されたのに、今はもう無用の存在として世間の目を避けるように暮らしている。贅肉におおわれたウエスト、少し走っただけで上がる息。妻の尻にしかれ、子供に手を焼く。自分が一番好きなことをできないもどかしさ。かつての栄光を思い出せば思い出すほど、今の自分との落差が許せなくなる。そんなインクレディブルの気持ちが痛いほど伝わってくる。


登場人物のスーパーパワーがそれぞれ個性的だ。父と息子にはパワーやスピード、母と娘にはしなやかさや防御的なパワーを与え、家族のメンバーそれぞれが協力して長所を活かしあうという理想の家族構成。表情・動きがとても洗練され時にユーモアも交えながら敵と闘う展開は、ひと時も退屈させず一気に最後まで見せる。ただ、インクレディブルとミラージュの間にもうひと波乱ほしかった。まあ、政治的なメッセージを抜きにすれば、家族の愛をテーマにした明快で爽快で愉快な作品だった。


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