こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

犬猫

otello2004-12-10

犬猫


ポイント ★★★*
DATE 04/12/7
THEATER シネ・アミューズ
監督 井口奈巳
ナンバー 144
出演 榎本加奈子/藤田陽子/忍成修吾/小池栄子/西島秀俊
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


目当ての男には積極的にアプローチして女らしさを演出する「犬」と、男に合わせずに声をかけさせるように仕向ける「猫」。男の目から見てかわいいと映るのは当然「犬」のほうだ。しかし、女の目から見れば「猫」のほうが正直に見えるだろう。そんな2人の女を同居させ、2人の男を巡って駆け引きをさせる脚本が秀逸。嫌いなはずなのに一緒にいなければならない、そんな複雑で濃密な心理描写が凝縮され、奇妙なバランスをとりながら時間がゆったりと流れていく。


恋人と別れアパートを飛び出したスズは友人の家に転がり込むが、そこで留守番をしているヨーコといっしょに暮らすハメになる。ある日、ヨーコが密かに思いを寄せるバイト先の若者にスズが急接近したことから、二人の生活にヒビが入り始める。


スズとヨーコの関係が徐々に明らかになっていく仕掛けにセンスを感じる。実は幼なじみ。ヨーコの男をスズが横取りした。同じことがバイト先の男との間にも起きようとしている。舌足らずなしゃべり方と料理上手という男受けするスズ、化粧っけがなく男に媚びないけど恋愛ベタなヨーコ。この正反対の2人を対比させることで、女として生きるにはどちらが得かを示唆するところがおもしろい。


自転車やタバコ、ワンピースやコンタクトレンズといった小道具の使い方も自然で洗練されている。その小道具に秘められたメタファーが2人の境遇を示唆し、さりげなく心理的緊張を盛り上げる。ただ、ワンシーンが長すぎるのが難点。展開にもう少し緩急をつければもう少し引き締まった印象になっただろう。それにしてもいまどきの若い男はなかなか自分から女を口説こうとしない。そんな時代だからこそヨーコのような女は生きにくい。この物語、井口奈巳監督の実体験なのだろうか。だからこそ最後にヨーコがスズに一矢報いるシーン、妙に爽快感に満ちている。


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