こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パッチギ!

otello2005-01-26

パッチギ!

ポイント ★★
DATE 05/1/23
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 井筒和幸
ナンバー 12
出演 塩谷瞬/高岡蒼佑/沼沢エリカ/オダギリジョー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


粗暴で単純、すぐに乱暴を働き、目が合った相手には誰かれなくかまわずけんかを吹っかける。朝鮮高校の生徒たちを戯画化するのはいいのだが、ここまで執拗に暴力を繰り返し朝高生を野蛮人の集団のように描く必要はあるまい。しかも散発的で多発的。目的があって暴れているのではなく、ただ暴れたいから暴れているという程度の低さ。表現にもう少し工夫があれば楽しめたのだろうが、単なるバカ高校生の乱闘の連続には目を背けたくなった。


京都・東高の康介は対立する朝鮮高校にサッカーの親善試合を申し込みに行く。そこで目にした美少女・キョンジャに一目ぼれ。しかし彼女は朝高の番長アンソンの妹だった。一方で、東高と朝高の対立はエスカレート、血で血を洗うような抗争に発展する。


最初のうちは、グループサウンズ毛沢東、ヒッピー、フリーセックス、学生運動など68年当時の風俗がコミカルに再現され、日朝の民族問題を絡めるなどとてもテンポがよかった。そこに「ロミオとジュリエット」のような恋が始まり心弾む予感がスクリーンを包む。しかし、映画は民族を超えた恋を描くよりも、その周辺人物を描くことに熱を入れる。他の朝高生、康介の担任、世界を放浪するヒッピー、アンソンの彼女と友人の看護婦などの人々のエピソードをを丹念に描くことで物語を拡散し、収拾がつかなくなる。


一度拡散した物語は、最後まで収斂することなく大団円を迎える。並行するエピソードがクライマックスに向けてひとつに集束するという映画のセオリーを守ることなく、康介とアンソンの幸せなその後を申し訳程度に挿入することでお茶を濁す。結局、家族に恵まれた平凡な人生が一番、というような平凡な結末には開いた口が塞がらなかった。北朝鮮の発禁歌をオンエアするラジオディレクターの思いなど、よいエピソードは残した上で康介に関係する登場人物ももう少し整理し、アンソンにまつわる話はカットすれば引き締まった作品になっただろう。


他の新作を見る