こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オペラ座の怪人

otello2005-02-02

オペラ座の怪人 THE PHANTOM THE OPERA

ポイント ★★★★
DATE 05/1/29
THEATER 109シネマズ木場
監督 ジョエル・シューマッカー
ナンバー 15
出演 ジェラール・バトラー/エミィ・ロッサム/パトリック・ウィルソン/ミニー・ドライバー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


美しいメロディに身をゆだね、歌に陶酔する。愛、喜び、嫉妬、恐怖、怒り、あらゆる感情が波打つように押し寄せては返す。まさに「音楽の天使」だけがいざなうことができる大胆で繊細な至福の境地。舞台のクオリティを落とすことなく、時間的空間的に解放された映像に翻訳した丁寧な演出は細部にまで魂が宿り、怪人とヒロインの間に横たわる深い絆と歪んだ愛を多角的に表現する。


1870年代、パリ・オペラ座。劇場には怪人が住むといわれ、謎の事件が頻発する。そんな中、新作オペラのリハーサル中にプリマドンナが事故にあい、代役に抜擢されたクリスティーンは見事にステージをこなして名声を得る。彼女こそ怪人の教え子で、その後も怪人の要求で次々と役を得るが、ラウルという青年と恋に落ちたことから怪人の怒りと嫉妬を買う。


もともとがオペラ座という狭い閉鎖空間で繰り広げられる物語だ。空間的な広がりがない代わりにカメラは劇場の客席・楽屋・バックステージ・地下を自在に動き回り、めまぐるしいスピード感を出すことに成功している。その動きは神出鬼没の怪人の行動と重なり、怪人がこのオペラ座を支配していることを示す。偏在する怪人の視点、これこそ舞台では表現できない映画ならではの解釈だ。そして、劇場内で起こることをすべて知る立場にいることが逆に怪人を苦しめ、狂気に火をつける。


愛されることなく育った怪人の心は、愛することの喜びも悲しみも知らない。狂おしいほどにクリスティーンを愛しながらも、そこから発散するのは怒りのみ。そして自己犠牲が愛の究極と知ったとき、怪人は姿を消す。視覚的にも劇中オペラのステージの作りこみ、「マスカレード」の目くるめくようなダンス、そして最大の見せ場であるシャンデリアの落下をラスト近くに持ってくることで、映画的な興奮を盛り上げることにも成功している。傑作舞台の映画化ではなく、この作品自体が独立した世界を確立し、ミュージカルの楽しみを存分に味あわせてくれた。

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