こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マシニスト

otello2005-02-25

マシニスト THE MACHINIST

ポイント ★★
DATE 05/1/12
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 ブラッド・アンダーソン
ナンバー 5
出演 クリスチャン・ベール/ジェニファー・ジェイソン・リー/ジョン・シャリアン/マイケル・アイアンサイド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


不眠症患者の見る幻覚と被害妄想を、彩度を落とした映像と神経を逆なでする音楽で延々と描写する。主人公から見た世界はすべて自分に敵意を持ち、時にそれを剥き出しにする。そして観客の不快感が爆発寸前になったとき訪れる突然の救済。しかし、同じような不快で退屈な表現が繰り返されるため、スクリーンに注意をはらい続けるのは相当の忍耐が必要だ。


一年間も眠れずに過ごしているトレバーは、ある日謎めいた男と知り合う。その男のせいで勤務中にミスを犯し、同僚が腕を切断する大怪我を負う。その後も謎の男はトレバーに付きまとい、彼の身の回りには不可解なことが連続して起きる。


主人公を演じたクリスチャン・ベールは、まさしくアバラは浮き筋が立つような文字通り骨と皮だけの体になって、精神を蝕まれた男になりきる。その不健康極まりない容貌がリアリティを与える一方で、見るものの心に嫌悪感が澱のようにたまっていく。それが作者の狙いだろう。確かにカメラワークやカットの使い方はセンスを感じさせる。しかし物語に変化が乏しく、ここまで不快指数が上がる展開はむしろ悪趣味としか思えない。たとえば、妄想と現実の境をはっきりさせるために、第三者の目から描いたフルカラーのシーンを要所要所に挿入すればメリハリの効いた作品になっていたはずだ。


結局トレバーが不眠症になったのは、子供をひき逃げしたことに対する良心の呵責が原因であることが最後になって明かされる。事件はうやむやになり自分が犯人であることは誰にもばれていない。それでもいつか警察が来るのではないかというおびえと、ひき逃げした子供の亡霊が奇妙なメッセージとなって、彼から睡眠を奪い精神を蝕む。自首して初めて彼に訪れた安らかな眠り。このラストシーンにようやく救われた思いがした。


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